匠雅音の家族についてのブックレビュー   戦うコンピュータ 2011−戦場のIT革命いま、そこにある未来戦|井上孝司

戦うコンピュータ 2011
戦場のIT革命いま、そこにある未来戦
お奨度:

筆者 井上孝司(いのうえ こうじ)  光人社 2010年 ¥2300−

編著者の略歴−  テクニカルライター。1966年生まれ、マイクロソフト(株)勤務などを経て、1999年春に独立。当初はIT関連分野で書籍・雑誌記事などの執筆からスタートしたが、さらにIT教育分野や航空戦ゲームソフトの監修などにも進出。その後、本書の前作にあたる『戦うコンピュータ』(毎日コミュニケーションズ)により軍事・安全保障分野にテリトリーを拡大したのをきっかけに、「エアワールド」「丸」などの各誌で記事を執筆中。特に軍事分野においては、IT関連の知識・経験を活かして独自の境地を開拓中。その集大成が本書といえる。さらに、鉄道を初めとする運輸・交通分野に進出して、『配線略図で広がる鉄の世界』(秀和システム)では、交通協力会の交通図書賞(第35回)一般部門で奨励賞を受賞したり、テレビ・ラジオ番組に出演したりと、こちらも精力的に活動中。  URL:http://www.kojii.net/
 飛行機からテレビ、自動車まで、今やコンピューターが絡んでいないものはない。
ましてや戦場で使われる兵器に至っては、コンピューターなしではまったく機能しない。
家族を考える本サイトが、軍事兵器を読むのは不思議かも知れないが、戦争は家族にも大きな影響を与える。
そのため、戦争につながる兵器関係も無視できないのだ。

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 太平洋戦争のときには、精神論や根性路線が幅を利かせていた。
そのため、日本軍兵士は無駄な作戦で苦しまされた。
当時はまだコンピューターがなく、感やら経験がモノをいっていただろう。
しかし、敵方にレーダーが登場するに及んで、日本軍のカンや経験は敗れていった。

 現在の戦争は、まるでスターウォーズのようだ。
映画のなかで見る戦争シーンには、大きなスクリーンが登場し、スクリーンを見ながら指揮されている。
 しかし、本書は現実のほうが進んでいるという。
そうかも知れない。
映画に使われていれば、現実でも使うだろうし、反対もまた真実だろう。
むしろ現実のほうが必要性の刺激は強いから、現実のほうが進んでいるかも知れない。
人間の想像力とはそんなに突飛に飛躍できるものではない。

 かつて戦力は大きさに表れた。
巨大な戦艦は強そうだったし、事実、搭載される爆弾なども大量だった。
それが軍艦の排水量規制という国際条約ができた理由だった。
しかし、今日では戦車が歩兵の肩から発車されるミサイルに負けたりする。
大かならずしも強いとは限らなくなった。
しかも、コンピューター、ソフトがなければただの箱というように、兵器もコンピューターのソフトがなければ、ただの鉄の塊でしかない。

     目次
はじめに 001
第1章 軍用ITと軍事革命………015
1.現代兵器はドンガラよりもアンコで決まる………016
2.戦場の霧と、戦場の情報化………018
3.軍事面における革新を実現するための手段………020
4.System of Systemsという考え方………022
5.情報化によって変わること・変わらないこと………026

第2章 コンピュータとウエボン・システム…027
1.コンピュータと兵站………028
2.コンピュータとフラットフォーム………035
3.コンピュータと射撃指揮………045
4.コンピュータと精密誘導兵器………054
5.コンピュータと航法・誘導………062
6.コンピュータと電子戦………074
7.コンピュータと訓練………077

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第3章 兵器のIT化とウェポン・システム開発事情…083
1.装備開発の基本的な流れ………084
2.既存装備のアツプグレードも花盛り………090
3.開発のためには試験の環境が必要………092
4.軍用コンピュータとCOTS化………095

第4章 軍用ITを支えるコンピュータと開運技術…105
1.コンピュータとソースコードとインターフェイス………105
2.集中処理と分散処理………114
3.軍用のコンピュータ・システムに求められる条件………117
4.コンピュータと暗号………124
5.コンピュータと身元の証明と改竄検出………129

第5章 軍用ITと無人ヴィークル………133
1.無人ヴィークルとは………134
2.無人ヴィークルの用途………136
3.無人ヴィークルの実現に必要な技術………147
4.無人ヴィークルのメリットとデメリット…151
5.無人ヴィークルにまつわる諸問題……154

第6章 軍用ITを支える通信技術…159
1.通信は軍事作戦の基本………159
2.有線・無線通信の基本と電波の周波数…166
3.衛星通信をめぐるあれこれ………172
4.主な軍用通信衛星………176
5.スペクトラム拡散通信とは…180
6.マルチバンド無線機とソフトウェア無線機………182

第7章 データリンクと情報共有をめくるあれこれ…187
1.ネットワークは階層構造で考える………188
2.データリンクとは?………190
3.西側諸国の標準・Link16………195
4.Link16以外のデータリンク……201
5.最新世代のデータリンク………208
6.データリンクを利用した情報の共有と連携……211
7.データリンクを利用した情報・指令の伝達‥‥217
8.データリンクを利用した静止画・動画などのデータ伝達……221
9.データリンク導入の事例………223

第8章 コンピュータとC4ISRとネットワーク‥227
1.状況認識(SA)・lSR・C41SR………228
2.コンピュータとlSR(EO/lR編)………234
3.コンピュータとlSR(レーダー編)………243
4.コンピュータとlSR(その他編)………250
5.lSR資産から得たデータの提示と融合…256

第9章 ネットワーク中心戦と指揮統制システム‥261
1.必要な情報はネットワークに集中・共有する‥‥‥262
2.戦術レベルの指揮管制とITの関わり…271
3.作戦・戦略レベルの指揮統制とITの関わり…‥‥286
4.全軍規模のシステムと軍種ごとのシステム……292
5.米陸軍のLandWarNet……298
6.米海軍のFORCEnet……302
7.米空軍のC2 Constellation………305

第10章 サイバー防衛と市民生活‥307
1.すでにネットワーク中心戦は現実……308
2.サイバー戦とは具体的に何をするもの?…‥‥311
3.すでに現実になっているサイバー戦………316
4.サイバー防衛組織の整備を急ぐ各国……321
5.サイバー防衛の実際………325


 ITだから特別というわけではなく、軍隊なら当たり前と言えば当たり前のことが多い。
どんな場合でも、ITはリアルな現実を支え、より効率的にする道具だから、軍隊と言えども特段のことはない。

 軍需品と言えば、頑丈な特注品で特別というイメージがあった。
もちろん今でも特注品も多いが、ITに関しては必ずしもそうではない。
また、軍事品だから最先端とは限らない。
むしろ、IT技術の進歩が早くなり、膨大な人数を抱える軍隊では、装備の更新が追いついていないようだ。

 OSの更新は、マイクロソフトに従うしかない。
そのうえ、OSが更新されて初めて、アプリケーションが更新できるのだから、軍用品のようなものはどうしても遅くなるだろう。
前半は具体的な話だったので判りやすかった。
後半は抽象的な分野に入って、話に付いていくのが大変だった。
しかし、面白く読了した。  (2012.10.15)
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参考:
M・ヴェーバー「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」岩波文庫、1989
アンソニー・ギデンズ「国民国家と暴力」而立書房、1999
石原寛爾「最終戦争論」中公文庫、2001
多川精一「戦争のグラフィズム」平凡社、2000
レマルク「西部戦線異常なし」レマルク、新潮文庫、1955
ジョージ・F・ケナン「アメリカ外交50年」岩波書店、2000
アミン・マアルーフ「アラブが見た十字軍」筑摩学芸文庫、2001
アンソニー・ギデンズ「国民国家と暴力」而立書房、1999
戸部良一ほか「失敗の本質:日本軍の組織論的研究」ダイヤモンド社、1984
田中宇「国際情勢の見えない動きが見える本」PHP文庫、2001
横田正平「私は玉砕しなかった」中公文庫、1999
ウイリアム・ブルム「アメリカの国家犯罪白書」作品社、2003
佐々木陽子「総力戦と女性兵士」青弓社、2001
多川精一「戦争のグラフィズム 「FRONT」を創った人々」平凡社、2000
秦郁彦「慰安婦と戦場の性」新潮選書、1999
佐藤文香「軍事組織とジェンダー」慶応義塾大学出版会株式会社、2004
別宮暖朗「軍事学入門」筑摩書房、2007
西川長大「国境の超え方」平凡社、2001
三宅勝久「自衛隊員が死んでいく」花伝社、2008
戸部良一他「失敗の本質」ダイヤモンド社、1984
ピータ・W・シンガー「戦争請負会社」NHK出版、2004
佐々木陽子「総力戦と女性兵士」青弓社 2001
菊澤研宗「組織の不条理」ダイヤモンド社、2000
ガバン・マコーマック「属国」凱風社、2008
ジョン・ダワー「敗北を抱きしめて」岩波書店、2002
サビーネ・フリューシュトゥック「不安な兵士たち」原書房、2008
デニス・チョン「ベトナムの少女」文春文庫、2001
横田正平「私は玉砕しなかった」中公文庫、1999
読売新聞20世紀取材班「20世紀 革命」中公文庫、2001
ジョン・W・ダワー「容赦なき戦争」平凡社、1987
杉山隆男「兵士に聞け」新潮文庫、1998
杉山隆男「自衛隊が危ない」小学館101新書、2009
伊藤桂一「兵隊たちの陸軍史」新潮文庫、1969
田中美津「いのちの女たちへ」現代書館、2001年
ジェリー・オーツカ「天皇が神だったころ」アーティストハウス、2002
原武史「大正天皇」朝日新聞社、2000
大竹秀一「天皇の学校」ちくま文庫、2009
ハーバート・ビックス「昭和天皇」講談社学術文庫、2005
片野真佐子「皇后の近代」講談社、2003
浅見雅男「皇族誕生」角川書店、2008
河原敏明「昭和の皇室をゆるがせた女性たち」講談社、2004
加納実紀代「天皇制とジェンダー」インパクト出版、2002
ケネス・ルオフ「国民の天皇」岩波現代文庫、2009
吉田祐二「天皇財閥」学研、2011
井上孝司「戦うコンピュータ 2011」光人社、2010

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