著者の略歴−田中琢(たなかみがく)1933年滋賀県に生まれる.京都大学文学部卒業.奈良国立文化財研究所埋蔵文化財センター長,文化庁文化財鑑査宮をへて,1994年から奈良国立文化財研究所長. 著書−「古鏡」(講談杜)「三角縁神獣鏡の謎」(共著,角川書店)「平城京」(岩波書店) 「倭人争乱」(集英杜) 佐原真(さはらまこと)1932年大阪府に生まれる. 大阪外国語大学卒業.京都大学大学院博士課程修了.奈良国立文化財研究所埋蔵文化財センター長をへて, 1993年から国立歴史民俗博物館副館長. 著書−「銅坪」(講談杜)「日本人の誕生」(小学館)「考古学千夜一夜」 (小学館)「騎馬民族はこなかった」(日本放送出版協会)田中琢、佐原真「考古学の散歩道」岩波新書、1993 考古学はロマンを求めると言われるが、古い物を調べるのは楽しいだろう。 しかも、発掘された物を調べている限りは、平穏無事である。 問題は発掘の場所を捜すことである。 本書は、発掘された物をいかに、客観視するかという話である。
ロマン、イデオロギーいずれも魅力的だが、危険でもある。 本書は13本の論文からできており、すべて筆者が違う。 はじめに………田中琢 動物の骨からなにがわかるか ………松井章 脂肪酸が示す世界 ………中野益男 トイレの考古学 ………松井章 ・金原正明・金原正子 年輪から歴史を読む ………光谷拓実 稲作の起源を求めて………藤原宏志 発掘人骨が明かす古代家族………田中良之 遺跡探査の科学………西村康 地震考古学の誕生………寒川 旭 コンピュータ活用術………森本 晋 須恵器と埴輪の産地をさがす………三辻利一 漆のルーツを求めて………工楽善通 建物や石室の健康診断………内田昭人 文化財保存のための科学 ………沢田正昭・肥塚隆保・村上隆 おわりに………佐原 真 それぞれが独立した論文なので、個別に読んでもいい。 いずれも考古学を科学しようとするものばかりで、それなりに面白く読める。 古代人のトイレから、彼らの健康状態までわかってきた!寄生虫分析や脂肪酸分析をはじめ、レーダー探査、年輪年代学、プラント・オパール法、地震考古学、そして文化財保存の料学など、学際的研究の進展はめざましい。何がどこまでわかったか。各分野の第一線の専門家たちが興味深いエピソードをまじえてわかりやすく解説。 と、表紙の見返しにあるとおり、興味あることがやさしく書かれている。 少し気になるのは、定説が否定され、より古い時代まで遡れるようになった、という記述が多いことである。 歴史が長いことが、日本人の正当性を保障したり、権威を高めたりすることはない。 どんな科学でも、いきなり新事実が発見されるわけではなく、まず仮説をたてるという作業がある。 仮説を立証するという手続きにはいるのだが、前提となる仮説の当否が問題である。 仮説にすでにイデオロギーが入ってしまう危険性はないのだろうか。 気軽に読める本だけに、しかも研究者が科学者であろうとすればするほど、没社会的になりやすい。 それは同時に体制的であるということだ。 それにしても、こうした作業を業とできる立場というのは、とても恵まれている。 大学や研究機関に所属するからできるのだろうが、学者というのは面白い生き物である。 また、古いというだけで価値がある、考古学とは不思議な学問でもある。
参考: 杉本鉞子「武士の娘」ちくま文庫、1994 H・G・ポンティング「英国人写真家の見た明治日本」講談社、2005(1988) A・B・ミットフォード「英国外交官の見た幕末維新」講談社学術文庫、1998(1985) 杉本鉞子「武士の娘」ちくま文庫、1994 松原岩五郎「最暗黒の東京」現代思潮新社、1980 イザベラ・バ−ド「日本奥地紀行」平凡社、2000 リチャード・ゴードン・スミス「ニッポン仰天日記」小学館、1993 ジョルジュ・F・ビゴー「ビゴー日本素描集」岩波文庫、1986 アリス・ベーコン「明治日本の女たち」みすず書房、2003 渡辺京二「逝きし世の面影」平凡社、2005 湯沢雍彦「明治の結婚 明治の離婚」角川選書、2005 雨宮処凛「生きさせろ」太田出版、2007 菊池勇夫「飢饉 飢えと食の日本史」集英社新書、2000 アマルティア・セン「貧困と飢饉」岩波書店、2000 紀田順一郎「東京の下層社会:明治から終戦まで」新潮社、1990 小林丈広「近代日本と公衆衛生 都市社会史の試み」雄山閣出版、2001 松原岩五郎「最暗黒の東京」岩波文庫、1988 ポール・ウォーレス「人口ピラミッドがひっくり返るとき高齢化社会の経済新ルール」草思社、2001 鬼頭宏「人口から読む日本の歴史」講談社学術文庫、2000 塩見鮮一郎「異形にされた人たち」河出文庫、2009(1997) 速水融「歴史人口学で見た日本」文春新書、2001 佐藤常雄「貧農史観を見直す」講談社現代新書、1995 杉田俊介氏「フリーターにとって「自由」とは何か」人文書院、2005 塩倉裕「引きこもる若者たち」朝日文庫、2002 横山源之助「下層社会探訪集」文元社 大山史朗「山谷崖っぷち日記」TBSブリタニカ、2000 三浦展「下流社会」光文社新書、2005 高橋祥友「自殺の心理学」講談社現代新書、1997 長嶋千聡「ダンボールハウス」英知出版、2006 石井光太「絶対貧困」光文社、2009 杉田俊介「フリーターにとって「自由」とは何か」人文書院、2005 雨宮処凛ほか「フリーター論争2.0」人文書院、2008 金子雅臣「ホームレスになった」ちくま文庫、2001 沖浦和光「幻の漂泊民・サンカ」文芸春秋、2001 上原善広「被差別の食卓」新潮新書、2005 M・ハリス「ヒトはなぜヒトを食べたか
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