匠雅音の家族についてのブックレビュー   児童性愛者|ヤコブ・ビリング

児童性愛者 お奨度:

筆者 ヤコブ・ビリング(Jacob Billong)   解放出版社 2004年 ¥2000−

編著者の略歴− 1966年生まれ。1999年デンマーク・ジャーナリスト・カレッジ卒業。同年、ラジオ番組「優しい扱いのもとで」でデンマーク・ラジオ報道賞受賞。2000年「デンマークの児童性愛者」で同年のテレビ・オスカー賞候補、「セイブ・ザ・チルドレン」の子ども人権賞受賞。
 未成年者だからといって、セックスをしないわけではない。
むしろ15〜19才くらいの性欲はもっとも強く、かつては堂々とセックスが許されていた。
現在では、結婚がセックス可否の基準になっている。
だから、結婚していない未成年者は、セックスをしない建前になっている。
しかし、本当の話、現在でも未成年者はセックスをしている。
本サイトでは、未成年者がセックスをする前提で、性教育をすべきだと考えている。

 ところで、未成年者とは何歳からを言うのだろうか。
10歳以下を未成年とは言わないだろう。
生理・精通のない若年者は未成年には違いないが、未成年者の範疇には入らないに違いない。
未成年者の定義が曖昧なため、本書の主題が判りにくいかも知れない。
そのうえ、児童買春を禁止する法律が、児童を18歳未満と規定しているため、よけいに判りにくい。
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 児童買春を禁止する法律は、性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器、肛門又は乳首を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせることを禁止している。
当然の規定だが、すでに自立して働き始めた17才の若者には、この規定は当てはまりそうにもない。

 本書が対象にしているのは、生理・精通前の子供への性的な虐待である。
ペドフェリアは小児性愛と訳されるが、児童買春禁止法との関係もあって、本書では児童性愛と訳されている。
デンマークでは2000年まで、<児童性愛者協会>という合法団体があり活動を続けていた。
その団体では、<子どもと成人間の性的関係に対しての世間一般の偏見を取り除く>ことを、会則にかかげて活動していた。

 児童性愛者協会は合法的な団体だといっても、もちろんやっていることは許されることではない。
テレビ記者が取材を申し込んでも、この団体は取材を拒否していた。
そこで、筆者は児童性愛者になりすまして、隠しカメラを身につけて、FBIのような秘密潜入取材を試みたのである。
その結果がテレビ番組として報道され、何人かの会員が逮捕されて、児童性愛者協会は解散に追い込まれた。

 児童性愛者は男性にかぎられている。
女性は年少者に性的な感情を持たない。
そのため、児童性愛者はホモ=男色と間違われやすい。
ホモたちは若い男性を好んで、性的な対象にしてきた。
しかし、ホモが対象にしてきたのは、生理・精通後の若者達だ。
ホモと小児性愛者は区別する必要がある。

 本書は会員の発言をたくさん掲載している。そして、それに筆者が解説を付けている。

 どうやら彼(ある会員)は、性器への挿入という直接的行為さえなければ、子どもと一緒にすごしたり触れ合ったりして性的満足を得ることが、醜悪なことでも一線を越えることでもないと考えているようだった。とにかく彼は、自分のしでかしていることがすでに犯罪だとは思っていないようなのだ。だが、もしかすれば、彼の言う通りなのかもしれない。ひょつとしたら、調和に満ちた子どもと大人の性的関係なるものが存在するのかも知れない。それは、ぼくにはまだ分からない。P22

 これを同性愛に置きかえたらどうなるであろうか。
<調和に満ちた同性同士の性的関係なるものが存在するのかも知れない>と言えるだろうか。
もちろん、現在ではゲイというかたちで、同性愛は市民権を得ている。
成人であれば、男性同士でセックスをしても犯罪ではない。
しかし、少し前までは、ゲイはソドミー法の対象であり、ホモ行為は犯罪だった。

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 その上、ちょっと前までは姦通といって、婚姻関係にない男女間のセックスも犯罪だった。
そして、婚前交渉も社会的な非難にあった。
時代は変わるのだ。
前近代なら、生理・精通前の子供への性的関係も、大目に見られたかも知れない。
なにせ当時は、子供は労働力だったのだから。
しかし、今では小児性愛は犯罪である。

 とりわけ先進国では、小児性愛は厳しく禁止されている。
そのため、たとえば、インド、タイ、カンボジアなど、彼等は取り締まりの緩い途上国へと、幼い子供を求めてさまよっていく。
途上国では貧しさのために、幼い子供を大人の性の対象に仕立てる。
それを先進国の男性たちが買うのだ。
先進国の小児性愛者たちは、幼い子供を可愛がり、子供と合意したと称して、子供のほうからセックスを求めるように仕向ける。

 子供たちはお金が欲しい。
そこで両者の思惑が一致し、小児買春が成立する。
しかし、小児性愛は自由のもとでも、平等な関係のなかで行われているのではない。
最後に翻訳者が、あとがきに次のように書いている。

 本書には、自身も二児の父親である著者が児童性愛者になりすまして、彼らの告白を聞く様子が描かれている。ヤコブ・ビリングは彼らと話すうち、「性欲を成人の異性に感じようが、同性に感じようが、子どもに感じようが、持って生まれた性的指向だから仕方ない」という児童性愛者たちの身勝手な理屈に、ついつい負かされそうになる。成人間の性的関係(もちろん対等な合意の上での行為)と年少者に対するそれには、強者の優越的地位を利用したもので対等な関係の合意の上でのものではない、という決定的な隔たりがあるにも関わらず……。こうして被害を受けた子どもたちの精神的・肉体的なダメージには、計り知れないものがある。しかもそんなことが起きるのは自分が悪いからだと、罪悪感を幼い肩に一人で背負いこむのだ。P248

 自由と平等が、どんなに大切な理念か。
自由と平等がないところでは、どんな人間関係も歪になり、歪曲されていく。
前近代は自由もなかったし、平等でもなかった。
そんななかでも、人間は生きてきた。
身分制に生きた前近代の価値観と、自由と平等が支える近代の価値観は、まったく違うのだ。

 小児性愛は否定しなければならない。
生理・精通前の子供とのセックスは、無条件に完全に否定する。
難しいのは未成年者の扱いである。
生理・精通を経験してから20才までのあいだは、法律的にはいまだ子供扱いである。
しかし、肉体的には充分に成熟している。
本サイトは、こうした未成年者達がセックスすることを肯定する。

 セックスを売っても良いのか、という問題が残る。
本サイトは、自由意志で行われる売春を肯定している。
しかし、幼い子供の売春はもちろん否定するし、人身売買を伴った売春は大反対である。
それでは、生理・精通を経験した未成年者の売春を、どう扱うかである。

 売春については、途上国と先進国とでは、別様の扱いが必要だろう。
途上国での売春は、人身売買を伴うことが多く、貧困から売春に結びついていく。
しかし、先進国の売春は、本人の自由意志で行われている。
こちらは性の自己決定権として、売春する自由が尊重されるべきだ。
では、境界線をどこに引くか。
国境を越える、それが難しい問題である。  (2010.12.28)
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参考:
奥地圭子「学校は必要か:子供 の育つ場を求めて」日本放送協会、1992
信田さよ子「脱常識の家 族づくり」中公新書、2001
高倉正樹「赤ちゃんの値 段」講談社、2006
デスモンド・モリス「赤 ん坊はなぜかわいい?」河出書房新社、1995
ジュディス・リッチ・ハリス「子育ての大誤解」 早川書房、2000
フィリップ・アリエス「子供の誕生」みすず書房、1980
伊藤雅子「子どもから の自立 おとなの女が学ぶということ」未来社、1975
エリオット・レイトン「親を殺した子供たち」 草思社、1997
ウルズラ・ヌーバー「<傷つきやすい子ども> という神話」岩波書店、1997
編・吉廣紀代子「女が子どもを 産みたがらない理由」晩成書房、1991
塩倉裕「引きこもる若者たち」 朝日文庫、2002
ピーター・リーライト「子どもを喰う世界」 晶文社、1995
ニール・ポストマン「子ども はもういない」新樹社、2001、
杉山幸丸「子殺しの行動学:霊長類社会の維持機構をさぐる」北斗出版、1980
矢野智司「子どもという 思想」玉川大学出版部、1995  
瀬川清子「若者と娘 をめぐる民俗」未来社、1972年
赤川学「子どもが減って何が 悪い」ちくま新書、2004
浜田寿美男「子どものリアリティ 学校のバーチャリティ」岩波書店、2005
本田和子「子どもが忌避される時代」 新曜社、2008
鮎川潤「少年犯罪」 平凡社新書、2001
小田晋「少年と犯罪」 青土社、2002
リチヤード・B・ガートナー「少年への 性的虐待」作品社、2005
広岡知彦と「憩いの家」「静かなたたかい」 朝日新聞社、1997
高山文彦「地獄の季節」 新潮文庫、2001 
マイケル・ルイス「ネクスト」潟A スペクト、2002
服部雄一「ひきこもりと家族ト ラウマ」NHK出版、2005
塩倉 裕「引きこもる若者たち」 朝日文庫、2002
瀬川清子「若者と娘 をめぐる民俗」未来社、1972
ロイス・R・メリーナ「子 どもを迎える人の本」どうぶつ社、2005
瀬川清子「若者と娘 をめぐる民俗」未来社、1972年
小山静子「子どもたちの近代」吉川弘文館、2002
風間孝&河口和也「同性愛と異性愛」 岩波新書、2010
匠雅音「核家族か ら単家族へ」丸善、1997
井田真木子「同性愛者たち」文芸春秋、1994
編ロバート・オールドリッチ「同性愛の歴史」東洋書林、2009
ミッシェル・フーコー「快楽の活用」新潮社、1986
アラン プレイ「同性愛の社会史」彩流社、1993
河口和也「クイア・スタディーズ」岩波書店、2003
ジュディス・バトラー「ジェンダー トラブル」青土社、1999
デニス・アルトマン「ゲイ・アイデンティティ」岩波書店、2010
イヴ・コゾフスキー・セジウィック「クローゼットの認識論」青土社、1999
デニス・アルトマン「グローバル・セックス」岩波書店、2005
氏家幹人「武士道とエロス」講談社現代新書、1995
ヤコブ・ビリング「児童性愛者」解放出版社、2004

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