匠雅音の家族についてのブックレビュー      赤ちゃんの値段|高倉正樹

赤ちゃんの値段 お奨度:

著者:高倉正樹(たかくら まさき)   講談社、2006年  ¥1、700−

 著者の略歴−1973年東京都生まれ。1997年早稲田大学政治経済学部卒。読売新聞入社。盛岡支局を経て、現在東京本社地方部記者。

 要保護の子供は、我が国では施設へおくられ、施設で育つことが多い。
里子や養子となって、親の元で育つ例は、10%に満たず、極端に少ない。
だいたい私生児は、我が国では生きていないのだ。
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 望まれない妊娠の場合、中絶の時機を逸してしまい、出産以外に選択肢がなくなったとき、どう対応するだろうか。
養子または特別養子といった選択肢があるが、海外へと子供を養子にする例がある、と本書はいう。
新聞記者である筆者は、海外養子の例を克明に追っている。

 本書の主張は、やや不明確である。
中絶が悪いといいたいのか、里親や養子縁組の少なさを非難しているのか、それとも海外養子縁組の無秩序さを批判しているのか。
おそらく、海外養子縁組が、法的な規制の対象でもなく、民間機関の勝手な行動に、ゆだねられている現状を批判しているのだろう。

 海外養子縁組が、子供の幸せのためという綺麗事に隠れて、人身売買になりかねず、臓器移植や児童ポルノの対象になったりしている。
我が国から出国する子供たちの、追跡調査が行われていない。
そのため、子供たちがどのような人生を歩いているか、わからないという。
だから、法の整備を進めるように言いたいらしい。

 外国人と国際結婚した日本人の話では、複数の国をまたいで家族族行をする際、出入国のたびに同伴している子どもとの関係を入念に確認されるので閉口するという。外国では、親子の姓や国籍が異なるケースなど、不審と疑われるケースは厳格に調べる体制を整えている。それに比べると、日本の出国時のチェックは明らかに手薄で、ほとんど何の規制もないに等しい。
 海外養子縁組の対策が進んでいる諸外国には、出国の際に特別な許可を必要とする国も多い。パスポートに加えて、養子縁組を許可したことを示す当局の証明がなければ、その子どもを出国させることができない仕組みになっている。
 こうした対策を採っているのは、韓国のほか、インドやフィリピン、タイなどだ。出国時に許可証明の提示を求めることで、自国の子どもを外国人が安易に国外に連れ出すことを厳しく制限している。P121


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にもかかわらず、我が国は海外養子をまったく規制していない。
子供の人権保護の観点からみると、実にけしからんことだ。
日本人の子供が、人身売買の対象になって、不幸な人生を歩かされたどうするのだ。
我が国も、早く海外養子の規制をすべきだ。本書はそう訴えているようだ。

 話はわかるのだが、ちょっと疑問が残る。

 2004年6月、この診療所からアメリカ・カリフォルニア州の家族にもらわれていった1人の男の子がいる。
 名前をコウキといった。
 生みの母の久美(17歳)は、埼玉県在住の高枚2年生。相手の男性も未成年だった。久美が妊娠に気づいた時、すでに中絶が可能な22週の時期は過ぎていた。
 妊娠を打ち明けられた母親の典子(50歳)は仰天した。しかし、そのまま出産を待っているわけにもいかなかった。
「娘を未婚の母にするわけにはいかない」
 夫にも相談できないまま、典子はあちこち尋ね回った。(中略)
 典子の一家が住んでいるのは、埼玉県のありふれた郊外の住宅街だ。近所に高校生の娘の妊娠を知られては、恥ずかしくてスーパーにも行けない。世間体を考え、久美をしばらく独りで住まわせることにした。P29


 娘の妊娠であるにもかかわらず、自分が恥ずかしくて近所のスーパーへも行けないというのは、どういうことだろうか。
無秩序な海外養子縁組を問題視するのは、もちろん大事だが、子供に対する我が国の視線を、もっと検討するべきだろう。

 未婚の出産やシングル・マザー、それに非嫡出児差別を、新聞はまっとうに扱っているのだろうか。
緑魔子や加賀まりこの妊娠を、マスコミはどう扱ったか。
我が国では、未だに私生児が極端に少ない。
婚外で生まれる子供は、ゼロに等しい。
非嫡出児差別や私生児差別は、新聞などマスコミが増幅しているのではないか。

 新聞記事は、警察・検察や中央省庁などが主な取材源になっている。
当局の裏付けが取れない記事は紙面にのりにくい、と言いきってしまう新聞記者の感覚を疑う。
こうした現状維持、体制翼賛的なマスコミの体質が、人権を無視しているのだし、差別を拡大しているのだ。

 海外養子斡旋の驚くべき実態、と腰巻きには書かれている。
しかし、本書を読むかぎり、どうも子供の人権が無視されているとは感じない。
むしろ、施設保育で我が国におかれるより、海外の養子となったほうが、はるかに幸福なようにさえ思えた。
法律ができて下手に規制されると、それまで幸せに外国にわたっていた赤ちゃんまで、日本人役人の手でもみくちゃにされてしまうのではないか、そんな気がした。
本書の視点・取材を否定はしないが、どうも力の入れる方向が違うのではないか。
 (2007.01.16)
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参考:
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ベティ・フリーダン「ビヨンド ジェンダー」青木書店、2003
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岩村暢子「普通の家族がいちばん怖い」新潮社、2007
下田治美「ぼくんち熱血母主家庭」講談社文庫、1993
高木侃「三くだり半と縁切寺」講談社現代新書、1992
加藤秀一「<恋愛結婚>は何をもたらしたか」ちくま新書、2004
バターソン林屋晶子「レポート国際結婚」光文社文庫、2001
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ロイス・R・メリーナ「子どもを迎える人の本」どうぶつ社、2005


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