著者の略歴−女性の問題を研究するジャーナリストであり作家。本書により2002年ロサンゼルス・タイムズ賞(今日の問題部門)を受賞した。「ハーバーズ・マガジン」「ヴイレッジ・ヴォイス」「ヴォーグ」「マイ・ジェネレーション」などの雑誌や、Salon.com、nerve.comといったオンライン・マガジンに、セックス・ジェンダー・家族・政治・心理学についてのエッセイや記事を執筆する。表現の自由や性教育のために活動し、全国作家連盟、フェミニストのグループ《ノー・モア・ナイス・ガールズ≫ を設立。ほかの著作にMy Enemy、My Love:Women、Men and Dilemmas of Genderなどがある。ニューヨーク市ブルックリンと、ヴァーモント州ハードウィック在住。 セックスは子どもにとって有害か? という腰巻きがついている。 女性の自立後、焦点は子供に移ってきたが、女性と違って子供は自分から発言できない。 そのため、大人たちが様々に発言し、自分とは別の生き物のように、子供を仕立て上げ始めている。
子供は無垢で純真なものという考えは、近代のものだとは周知の認識だが、現状は子供を性的なアンタッチャブルにしている。 子供には性欲がないと見なしている。 そのため、子供の性欲を肯定し、子供は性的な快感を知っていると発言することは、今やアメリカでは許されなくなりつつある、と本書は警告する。 先進国に共通する少子化現象に、アメリカも見舞われている。 少ない子供に、無用な刺激を与えることは避けたい。 子供を有意な方向へ導くのは難しいが、否定的な発言を一つ一つ摘み取るのは易しい。 差別用語に対する言葉狩りと同じ心理である。 傷つき易いと見なされる者へ、恐怖心が集中的に表現される。 20世紀後半、このような恐怖に対する政治的活動は、2方向から起こつた。ひとつはフェミニストの側からの動きで、フェミニストは女性と子どもに対するレイプと家庭内暴力が蔓延していることを告発し、加害者が罰され、犠牲者が非難されることのない新しい法的枠組みを提唱した。もうひとつは宗教右派による動きである。女性と子どもは「生まれつき」、性的なものならなんでも嫌うものだから、特別な保護が必要だという信念が政策に持ちこまれた。P14 宗教右派は論外だから、ここでは論じない。 問題はフェミニズムであろう。 女性の自立はもちろん肯定されるが、和製フェミニズムに象徴される独善性は、 キャサリン・マッキノンやアンドレア・ドウォーキインのようにアメリカでも見られた。 一部のフェミニストは、ポルノを女性差別と糾弾した。 大人の性的欲望によって、子供が傷つくのでポルノ規制を訴えた。 フェミニストたちは、大人である自分と子供を、まったく別の生き物と見なした。 成人である自分は、性的な快感を体験してもいいが、 子供には性的快感は強すぎると、彼女たちは考えた。 そのために、子供から性的な臭いのするものを、すべて取り去ろうとした。 男性と女性は等価であると、フェミニズムは主張して、男女に同質の権利をもたらした。 しかし、彼女たちは子供は大人と違うと考えた。 自分には許されるが、他人には許されない。 この発想は女性が解放される前の男性のものだ。 男性は社会的な視野があるので、選挙権があっても良いが、 女性は感情の動物だから選挙権がない。 こんな論理が通るだろうか。 社会的に別異な生き物と考えることは、それ自体が差別の発想である。 『青少年に有害!』 はふたつの否定から始まった。セックスは、それ自体が青少年に有害ではないということ。そして、子どもをセックスから保護するというアメリカの姿勢は、子どもたちを守っているどころか、害を与えていることが多いということである。P31
子供の性関係は個人の問題である。 子供が性関係をつくるときに、適切な行動ができるように、親は教える必要がある。 しかし、誰と何時どのような性関係をつくるかは、個人が決定する問題であって、親や大人が決める問題ではない。 かつて女性は男性の財産だった。 女性を強姦することは、男性の財産を傷つけることだから、犯罪視された。 ここでは女性への保護が、そのまま男性財産の維持だった。 子供にも同様なことが言える。 性交承諾年齢(我が国では13歳)として、未成年者との性交を法律が禁止している。 これは子供への保護だろうか。 大人たちが好きな性交を、子供にだけ禁じるのはなぜか。 わたしたちはこのような法律を、未成年は特別な保護を受ける権利があるという原則に基づいているものと考えているが、もともとは、保護される対象は子ども自身ではなく子どもの処女性だった。そしてそれは父親の財産だったのである。P132 農耕社会では、子供は貴重な労働力であり、大人の財産の一種だった。 だから、子供の処女性を犯すことは、大人たちの財産権の侵害だった。 前述の例から、男女と大人子供を入れ替えてみれば、話は簡単に理解できるだろう。 いつの時代も、保護と差別は盾の裏表である。 法律が社会的成人の標識を支配しようとするのはセックスに関してだけではない。酒を飲んでもいい年齢、タバコを吸ってもいい年齢、学校をやめてもいい年齢、親の承諾書なしに中絶してもいい年齢、暴力あるいはセックスのある映画を見てもいい年齢、大人の刑務所に収監してもいい年齢もまた、子どもが法律を破ったときに親の責任を問えるかどうかという問題と同時に論争の的になっている。矛盾したことに、初交年齢がゆっくりと下がっているのに、承諾年齢は上昇している。そして未成年に対する「大人の」セックスが犯罪となる一方で、暴力犯罪の領域だけでは「子ども」が完全な大人として扱われている。P156 我が国でも同じ現象が起きている。 選挙権などは与えずに、子供に対して規制を強めようとしている。 性交体験の低年齢化防止とか、子供の非行化防止とか、女性たちが好みそうな言説が飛びかっている。 子供に教えるべきは、楽しい性交方法であり、そのための避妊の技術である。 昭和天皇の裕仁は、16歳の女性から生まれている。 つまり裕仁の母親は、15歳=中学3年生の時に性交をした。 それでも健康な子供が生まれ、裕仁は我が国を戦争へ導いた。 子供の性交は、健康な行為である。 子供とて解放されるべきであり、自由な活動が禁止されるべきではない。 子供は大人と同質の社会的な存在である。 女性が自立した後、子供の自立が待たれている。 生理や精通を体験した人間は、大人と何ら変わらない。 にもかかわらず、フェミニズムは子供の自立に反対する。 今やフェミニズムは反動化している。 本書のフェミニズム批判は、しごく真っ当である。 巻末に江原由美子氏が解説を書いており、そのなかでフェミニズムの弁解をしている。 しかし、我が国のフェミニズムが、子供と大人を同質の社会的存在だと見なしているとは、とうてい考えられない。 ここでも我が国のフェミニズムは、時代から完全に取り残されている。 いまや我が国のフェミニズムは、時代の先頭を走る思想ではなく反動である。 (2004.10.8)
参考: 岸田秀「性的唯幻論序説」文春文庫、1999 フランチェスコ・アルベローニ「エロティシズム」中央公論 1991 ジョルジュ・バタイユ「エロスの涙」ちくま学芸文庫、2001 オリビア・セント クレア「 ジョアンナの愛し方」飛鳥新社、1992 石坂晴海「掟やぶりの結婚道 既婚者にも恋愛を!」講談社文庫、2002 梅田功「悪戦苦闘ED日記」宝島社新書、2001 山村不二夫「性技 実践講座」河出文庫、1999 謝国権「性生活の知恵」池田書店、1960 清水ちなみ&OL委員会編「史上最低 元カレ コンテスト」幻冬舎文庫、2002 プッシー珠実「男を楽しむ女の性交マニュアル」データハウス、2002 生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002 赤松啓介「夜這いの民俗学」明石書店、1984 生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002 福田和彦「閨の睦言」現代書林、1983 田中優子「張形−江戸をんなの性」河出書房新社、1999 佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1995 アンドレア・ドウォーキン「インターコース」青土社、1989 カミール・パーリア「セックス、アート、アメリカンカルチャー」河出書房新社、1995 シャノン・ベル「売春という思想」青弓社、2001 シャノン・ベル「セックスワーカーのカーニバル」第三書館、2000 アラン・コルバン「娼婦」藤原書店、1991 曽根ひろみ「娼婦と近世社会」吉川弘文館、2003 アレクサ・アルバート「公認売春宿」講談社、2002 バーン&ボニー・ブーロー「売春の社会史」筑摩書房、1991 編著:松永呉一「売る売らないはワタシが決める」ポット出版、2005 エレノア・ハーマン「王たちのセックス」KKベストセラーズ 2005 高橋 鐵「おとこごろし」河出文庫、1992 正保ひろみ「男の知らない女のセックス」河出文庫、2004 ロルフ・デーゲン「オルガスムスのウソ」文春文庫、2006 ロベール・ミュッシャンプレ「オルガスムの歴史」作品社、2006 菜摘ひかる「恋は肉色」光文社、2000 ヴィオレーヌ・ヴァノイエク「娼婦の歴史」原書房、1997 ジャン・スタンジエ「自慰」原書房、2001 ジュリー・ピークマン「庶民たちのセックス」KKベストセラーズ、2006 松園万亀雄「性の文脈」雄山閣、2003 ケイト・ミレット「性の政治学」ドメス出版、1985 謝国権「性生活の知恵」池田書店、1960 山村不二夫「性技−実践講座」河出文庫、1999 ディアドラ・N・マクロスキー「性転換」文春文庫、2001 赤川学「性への自由/性からの自由」青弓社、1996 佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1996 ウィルヘルム・ライヒ「性と文化の革命」勁草書房、1969 田中貴子「性愛の日本中世」ちくま学芸文庫 2004 ロビン・ベイカー「セックス・イン・ザ・フューチャー」紀伊國屋書店、2000 酒井あゆみ「セックス・エリート」幻冬舎、2005 大橋希「セックス・レスキュー」新潮文庫、2006 アンナ・アルテール、ベリーヌ・シェルシェーヴ「体位の文化史」作品社、2006 石川弘義、斉藤茂男、我妻洋「日本人の性」文芸春秋社、1984 高月靖「南極1号伝説」バジリコ、2008 石川武志「ヒジュラ」青弓社、1995 佐々木忠「プラトニック・アニマル」幻冬社、1999 生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002 村上弘義「真夜中の裏文化」文芸社、2008 赤松啓介「夜這いの民俗学」明石書店、1994 岩永文夫「フーゾク進化論」平凡社新書、2009 ビルギット・アダム「性病の世界史」草思社、2003 メイカ ルー「バイアグラ時代」作品社、2009 白倉敬彦「江戸の春画」洋泉社、2002 田中優子「張形−江戸をんなの性」河出書房新社、1999 パット・カリフィア他「ポルノと検閲」青弓社、2002 匠雅音「性差を超えて」新泉社、1992
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