匠雅音の家族についてのブックレビュー    恋は肉色|菜摘ひかる

恋は肉色 お奨め度:

著者:菜摘ひかる(なつみひかる)−−光文社、2000年 ¥495−

著者の略歴−〜2002年。水商売から会社員を経て風俗入り。ヘルス、SM、性感、ソープとあらゆる業種を渡り歩く。現在はライター兼漫画家。著書に「風俗嬢菜摘ひかるの性的冒険」(洋泉社)「池袋イメクラ日記」(二見書房)がある。
 風俗に勤務するかたわら、風俗雑誌などでコラムやマンガなどを執筆する。1996年22歳の時、撮影のため新宿の街中で全裸になり、公然わいせつ罪で拘留される。その後、風俗を辞め、執筆活動に専念。しかし2002年に入ってから体の不調を訴えるようになり、不眠や頭痛、立ちくらみといった不定愁訴が多くなる。2002年11月4日、29歳でこの世を去る。

 水商売や性産業で生計をたててきた女性は、昔からたくさんいた。
売春婦といわれる職業がそれだが、
売女(バイタ)という言葉が最大の蔑称だったように、
体を売ることは賤しいこと悪いこととされてきた。
下に見られた水商売の女給さんや芸者ですら、
売春はしないと見得を切ったのである。

 売春婦たちは公的な場所にはだしてもらえず、
女性たちからさえ劣等に見なされていた。
性産業従事者は日陰の世界でのみ、徒花を咲かせていたのだ。
もちろん、出版という表の世界が、被写体や客体として以外の目的で、彼女たちに声をかけることはなかった。
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 時代は変わったと思う。
本書の筆者は、ペンネームを使ってはいるが、性産業に従事することを隠さない。
しばらく前に斉藤綾子が、「愛より速く」などで自分の性感をあけすけに書いて、
人気作家としてもてはやされた。
あの時代には、斉藤綾子の身のおき方でも、私は感激したものだった。

 本書の筆者−菜摘ひかるのスタンスには、心から美しさを感じる。
実に潔い。
本書の解説を斉藤綾子が書いているが、彼女は菜摘ひかるのあり方を、もう理解できないでいる。
斉藤綾子には、性は尊いものという意識が残っていたが、菜摘ひかるにはそんなものはない。
彼女は純粋な肉体労働者である。
家を作るために手や足を使うのと、
男性に快感を与えるために自分の体を使うことの間には何の違いもない。
 
 頑張れば頑張るほど結果が数字で返ってくる。
 いい接客をするという定評がつけば店にそれだけ大事にされ、お金を払った客である人たちからも喜ばれ、なぜかついでに感謝までされる。風俗は別に自慢するようなすごい仕事ではないけれど、決して人に言えないひどい仕事でもないとわたしは思うのだ。P176


 この筆者のスタンスに私は共感する。
筆者の職業は、超個人主義、超能力主義、超体力勝負、そしてまったく保証がない。
筆者の感性が鍛えられるはずである。

 身体を売れるのは、若いときだけの商売であることも、彼女は知っている。
若いときだけの職魚という理由で否定するなら、
スポーツ選手、テレビのアナウンサーなど同じような職業はたくさんある。
筆者はごく自然にこの職業をこなしている。
「風俗嬢菜摘ひかるの性的冒険」を読むと、筆者の日常をかいま見ることができ、ますます共感がわく。

 筆者のような立場を、フェミニズムはどう見るのだろうか。
菜摘ひかるは男性支配社会に洗脳されたとでも言うのだろうか。
私は、フェミニズムは売春を否定しておきながら、
同時に売春婦の人格をも否定しており、ひどく冷たい態度だと思う。
フェミニズムが売春婦を救うだって、そんな高踏的な態度はやめて欲しい。
高見から救う姿勢こそ、差別そのものじゃないか。

 性産業に従事しているからといって、筆者の個人的な性生活がないかといえば、そんなことはない。
筆者には筆者の恋人がいたり、当然のことながら売春ではないセックスがある。
「風俗嬢菜摘ひかるの性的冒険」で、筆者が逮捕され留置場からでてきたあとを書いているが、その行動と感想が実に納得できた。
売春婦は専門職であり、自立した職業人である。 

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フランチェスコ・アルベローニ「エロティシズム」中央公論 1991
ジョルジュ・バタイユ「エロスの涙」ちくま学芸文庫、2001
オリビア・セント クレア「 ジョアンナの愛し方」飛鳥新社、1992
石坂晴海「掟やぶりの結婚道 既婚者にも恋愛を!」講談社文庫、2002
梅田功「悪戦苦闘ED日記」宝島社新書、2001
山村不二夫「性技 実践講座」河出文庫、1999
謝国権「性生活の知恵」池田書店、1960
清水ちなみ&OL委員会編「史上最低 元カレ コンテスト」幻冬舎文庫、2002
プッシー珠実「男を楽しむ女の性交マニュアル」データハウス、2002
生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002
赤松啓介「夜這いの民俗学」明石書店、1984
生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002
福田和彦「閨の睦言」現代書林、1983
田中優子「張形−江戸をんなの性」河出書房新社、1999
佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1995
アンドレア・ドウォーキン「インターコース」青土社、1989
カミール・パーリア「セックス、アート、アメリカンカルチャー」河出書房新社、1995
シャノン・ベル「売春という思想」青弓社、2001
シャノン・ベル「セックスワーカーのカーニバル」第三書館、2000
アラン・コルバン「娼婦」藤原書店、1991
曽根ひろみ「娼婦と近世社会」吉川弘文館、2003
アレクサ・アルバート「公認売春宿」講談社、2002
バーン&ボニー・ブーロー「売春の社会史」筑摩書房、1991
編著:松永呉一「売る売らないはワタシが決める」ポット出版、2005
エレノア・ハーマン「王たちのセックス」KKベストセラーズ 2005 
高橋 鐵「おとこごろし」河出文庫、1992
正保ひろみ「男の知らない女のセックス」河出文庫、2004
ロルフ・デーゲン「オルガスムスのウソ」文春文庫、2006
ロベール・ミュッシャンプレ「オルガスムの歴史」作品社、2006
菜摘ひかる「恋は肉色」光文社、2000
ヴィオレーヌ・ヴァノイエク「娼婦の歴史」原書房、1997
ジャン・スタンジエ「自慰」原書房、2001
ジュリー・ピークマン「庶民たちのセックス」 KKベストセラーズ、2006
松園万亀雄「性の文脈」雄山閣、2003
ケイト・ミレット「性の政治学」ドメス出版、1985
謝国権「性生活の知恵」池田書店、1960
山村不二夫「性技−実践講座」河出文庫、1999
ディアドラ・N・マクロスキー「性転換」文春文庫、2001
赤川学「性への自由/性からの自由」青弓社、1996
佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1996
ウィルヘルム・ライヒ「性と文化の革命」勁草書房、1969
田中貴子「性愛の日本中世」ちくま学芸文庫 2004
ロビン・ベイカー「セックス・イン・ザ・フューチャー」紀伊國屋書店、2000
酒井あゆみ「セックス・エリート」幻冬舎、2005  
大橋希「セックス・レスキュー」新潮文庫、2006
アンナ・アルテール、ベリーヌ・シェルシェーヴ「体位の文化史」作品社、2006
石川弘義、斉藤茂男、我妻洋「日本人の性」文芸春秋社、1984 
高月靖「南極1号伝説」バジリコ、2008
石川武志「ヒジュラ」青弓社、1995
佐々木忠「プラトニック・アニマル」幻冬社、1999
生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002
村上弘義「真夜中の裏文化」文芸社、2008 
赤松啓介「夜這いの民俗学」明石書店、1994
岩永文夫「フーゾク進化論」平凡社新書、2009
ビルギット・アダム「性病の世界史」草思社、2003
メイカ ルー「バイアグラ時代」作品社、2009
イヴ・エンスラー「ヴァギナ・モノローグ」白水社、2002
橋本秀雄「男でも女でもない性」青弓社、1998
エヴァ・C・クールズ「ファロスの王国」岩波書店、1989
岸田秀「性的唯幻論序説」文春文庫、1999
能町みね子「オカマだけどOLやってます」文春文庫、2009
島田佳奈「人のオトコを奪る方法」大和文庫、2007
工藤美代子「快楽(けらく)」中公文庫、2006


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