匠雅音の家族についてのブックレビュー    セックスワーカーのカーニバル|シャノン・ベル

セックスワーカーのカーニバル お奨度:☆☆

著者:シャノン・ベル−第三書館、2000年   ¥2000−

著者の略歴−社会学者、哲学者、歴史学者。カナダのヨーク大学政治科学学部助教授として古典政治論、フェミニスト論、法律理論を教えている。

 セックスワーカーとは聞き慣れない言葉だが、日本語では性産業労働者と言うべきだろうか。
本書は、筆者によって1991年と1994年に行われた、セックスワーカーへのインタビューで構成されている。

 インタビュー相手の多くは売春婦(夫)だが、彼女たちの元気の良さがいったいどこから来るのか、
読んでいて不思議なほどである。
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セックスワーカーのカーニバル


 通常の社会常識では、売春婦は不潔で悪い奴でと、まったく否定的に捉えられがちである。
しかし、売春婦はなにも悪い存在ではないし、普通の事務職と何ら変わらない。
ただ、彼女たちを見る社会の目がおかしいだけである。

 次に目次を掲げる。

1.カンディダ・ロイアル−連中(フェミニストのこと)は本気でこきおろすわ。あたしたちは一方で哀れな犠牲者で、他方では罪を犯す売春婦だって
2.アニー・スプリンクル−あたしはある意味でタントラ的でね、理想としては12時間をセックスに費やしたいのよ
3.ヴェロニカ・ベラ−子供時代の性的経験に話がいくと、すぐさま「虐待」っていう言葉で決めつけたがるよね
4.グウェンドリン−合法化の問題点は、セックスワーカーの統制という危険性を考慮に入れてないってことよ
5.ジャネット・フェインデル−私と会って、こきおろした女たち(フェミニストのこと)は、ちょっとセックスを押さえすぎてたね
6.スカーロット・ハーロット−あたしは、一線を越えて、それから振り返ってみた。だけど、線なんか消えてたわ
7.ミストレス・パトリシア・マーシユ−男たちは、終わったあとに言うわ。「いやあ、あんたは、最高のセラピストだ!」って
8.ザ・マーケサ−ヘテロの関係でもし男がドミナントだったら、ファンタジーはどこにあるんだろう
9.ジェニー・B−性転換者とか、服装倒錯者とか、性別倒錯者なんかにどうしても引きつけられちゃう
10.アナスタシア−あたしの考えじゃ、法律がかえって仕事を危険なものにしちゃってるのよ
11.ペニー・ホアー−私は、男たちが「服従する女性」になりたがる、その根拠がなんであれ、支持してやるの 
12.ジユリアン・フランシスコ−売春は自由意思でやるもので、売春する者たち全部がそうならなきゃって思うね
13.マシユー・マクガワン−ホモを名のったのは16の時だった。もし、売春ってのを知ってたらやってただろうね
14.ジョン−売春婦は前金で取る。売春夫はめったにそれはやらない。ことが終わるまでは待とうとする


 しばらく前までは、既婚者しかセックスしてはいけなかった。
結婚がセックスの許可証だった。
しかし、今ではそんなことを言う人はいない。
愛があれば、セックスをするのは当然だ、と多くの人が言う。
とりわけ通俗フェミニストたちは、愛によるセックスが大好きである。

 極端なフェミニストは、愛のないセックスを否定しさえする。
既婚者や恋人であっても、付き合いでセックスするときだってあるだろう。
今日は疲れているから寝たいと思っても、妻や夫が求めてくれば応じることもあるに違いない。
この場合は、愛のあるセックスなのだろうか。
 
 売春婦は搾取されているが、事務職も搾取されている。
売春婦も仕事にいらつくときがあるが、事務職も大いにいらつくのは同じである。
専業主婦はセックスのみかえりに、夫に養ってもらっている。
セックスを拒否したら、専業主婦は離婚されてしまう。
他の仕事を探さなければ、彼女は生活できなくなる。

 恋人とセックスをするのと、客とセックスするのはどこが違うのだろうか。
セックスに違いはない。
セックスはセックスであり、愛は愛である。
本来、両者は別次元のものであり、関係がないものだった。
それを愛によるセックスが正しいとしてしまったので、
通俗フェミニストたちは核家族の呪縛につかまった。
言い換えると近代の男性支配に、フェミニストたちは愛によって降伏せざるを得なくなった。

 多くのフェミニストたちは、売春婦を哀れな犠牲者だという一方で、
罪を犯す犯罪者だっていう固定観念に凝り固まっている。
彼女たちは、同性である売春婦を蔑視している。
ごりごりの保守的男性とまったく変わらない。

 レスビアンたちは、1970年代はじめの頃、フェミニスト運動には邪魔者だった。今は、セックスワーカーがフェミニスト運動からみたら邪魔者にされている感じがするわ。P107

と、ジャネット・フェインデルはいう。
アニー・スプリンクルなど、わが国でも名前が知られてきたが、
わが国の売春婦たちも元気をだして欲しい。
それにしても許せないのは、キャサリン・マッキノンやアンドレア・ドウォーキンといった、反ポルノ・反売春婦のフェミニストたちである。
性を語らないわが国のフェミニストたちは論外である。

 インタビューをしているのは筆者のシャノン・ベルだが、
もちろん彼女は、売春は犯罪ではないという立場である。
彼女はセックスは自己認識を拡大する手段だといっている。
筆者の立場がしっかりしているのは、読んでいて気持ちがいい。
彼女は自分の性器を写真に撮らせ、自分が射精するところを本書に掲載している。
女性が射精するという表現がよく判らないが、俗にいう潮ふき現象なのだろうか。
すべての女性ではないが、イクときに女性も射精するのだ、と彼女はいう。

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参考:
J・S・ミル「女性の解放」岩波文庫、1957
岡田秀子「反結婚論」亜紀書房、 1972
フランチェスコ・アルベローニ「エロティシズム」中央公論 1991
ジョルジュ・バタイユ「エロスの涙」ちくま学芸文庫、2001
オリビア・セント クレア「 ジョアンナの愛し方」飛鳥新社、1992
梅田功「悪戦苦闘ED日記」宝島社新書、2001
山村不二夫「性技 実践講座」河出文庫、1999
謝国権「性生活の知恵」池田書店、1960
清水ちなみ&OL委員会編「史上最低 元カレ コンテスト」幻冬舎文庫、2002
プッシー珠実「男を楽しむ女の性交マニュアル」データハウス、2002
生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002
赤松啓介「夜這いの民俗学」明石書店、1984
福田和彦「閨の睦言」現代書林、1983
田中優子「張形−江戸をんなの性」河出書房新社、1999
佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1995
アンドレア・ドウォーキン「インターコース」青土社、1989
カミール・パーリア「セックス、アート、アメリカンカルチャー」河出書房新社、1995
シャノン・ベル「売春という思想」青弓社、2001
シャノン・ベル「セックスワーカーのカーニバル」第三書館、2000
アラン・コルバン「娼婦」藤原書店、1991
曽根ひろみ「娼婦と近世社会」吉川弘文館、2003
アレクサ・アルバート「公認売春宿」講談社、2002
バーン&ボニー・ブーロー「売春の社会史」筑摩書房、1991
編著:松永呉一「売る売らないはワタシが決める」ポット出版、2005
エレノア・ハーマン「王たちのセックス」KKベストセラーズ 2005 
高橋 鐵「おとこごろし」河出文庫、1992
正保ひろみ「男の知らない女のセックス」河出文庫、2004
ロルフ・デーゲン「オルガスムスのウソ」文春文庫、2006
ロベール・ミュッシャンプレ「オルガスムの歴史」作品社、2006
菜摘ひかる「恋は肉色」光文社、2000
ヴィオレーヌ・ヴァノイエク「娼婦の歴史」原書房、1997
ジャン・スタンジエ「自慰」原書房、2001
ジュリー・ピークマン「庶民たちのセックス」KKベストセラーズ、2006
松園万亀雄「性の文脈」雄山閣、2003
ケイト・ミレット「性の政治学」ドメス出版、1985
謝国権「性生活の知恵」池田書店、1960
山村不二夫「性技−実践講座」河出文庫、1999
ディアドラ・N・マクロスキー「性転換」文春文庫、2001
赤川学「性への自由/性からの自由」青弓社、1996
佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1996
ウィルヘルム・ライヒ「性と文化の革命」勁草書房、1969
田中貴子「性愛の日本中世」ちくま学芸文庫 2004
ロビン・ベイカー「セックス・イン・ザ・フューチャー」紀伊國屋書店、2000
酒井あゆみ「セックス・エリート」幻冬舎、2005  
大橋希「セックス・レスキュー」新潮文庫、2006
アンナ・アルテール、ベリーヌ・シェルシェーヴ「体位の文化史」作品社、2006
石川弘義、斉藤茂男、我妻洋「日本人の性」文芸春秋社、1984 
石川武志「ヒジュラ」青弓社、1995
村上弘義「真夜中の裏文化」文芸社、2008 
赤松啓介「夜這いの民俗学」明石書店、1994
岩永文夫「フーゾク進化論」平凡社新書、2009
ビルギット・アダム「性病の世界史」草思社、2003
メイカ ルー「バイアグラ時代」作品社、2009
イヴ・エンスラー「ヴァギナ・モノローグ」白水社、2002
橋本秀雄「男でも女でもない性」青弓社、1998
エヴァ・C・クールズ「ファロスの王国」岩波書店、1989
岸田秀「性的唯幻論序説」文春文庫、1999
能町みね子「オカマだけどOLやってます」文春文庫、2009
レオノア・ティーフアー「セックスは自然な行為か?」新水社、1988
井上章一「パンツが見える」朝日新聞社、2005
吉永みち子「性同一性障害」集英社新書、2000


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