匠雅音の家族についてのブックレビュー      セックスは自然な行為か?|レオノア・ティーフアー

セックスは自然な行為か? お奨度:

著者レオノア・ティーフアー   新水社、1998年 ¥2、800−

編著者の略歴−Ph.D 現在、ニューヨーク大学医学部、およびアルパート・アインシュタイン医科大学準教授、臨床心理学者。個人でも心理セラピイを開業。フェミニズムの視座からセクシュアリティの研究および実践について、活発な提言を行っている。「国際フェミニズムメンタルヘルス」の呼びかけ人であると同時に、有力なメンバー。

 アメリカでは1984年に出版された。
原題は「Sex Is Not A Natural Act」であり、<セックスは自然な行為ではない>が正しいだろう。
なぜ変えてしまったのだろうか。
TAKUMIアマゾンで購入

 筆者は、1969年にカルフォルニア大学バークレイ校で、ゴールデンハムスターの研究で博士号をとった。
しかし、セクシュアリティにかんする考えには、この博士号はまったく役に立たなかったという。

 1970年代に、女性解放運動から生み出された著作により、女性のセクシュアリティにおける最も大きな影響力は文化的規範であって、それが女性自身によって内面化され、制度により強制され、女性の人生における重要な他者によって実践されていると確信するにいたった。ハムスターたちは、私に、社会的規範については何も教えてくれなかったのである。
 私は大学院にもどり、臨床心理学者になるべく専攻しなおした。そこで、私は人間とともに仕事ができるようになり、その後、人の言葉で直裁に語れるセクシユアリティを研究し始めた。P8


 けだし当然である。
筆者の言からは、いかにも1970年頃の熱気を感じる。
このあたりから、ウーマンリブは完全にフェミニズムへと孵化した。
そして、女性解放の運動となって、世界中の先進国へと広まっていった。

 本書が書いているのは、今になってみれば、当然と思えるものが多い。
キンゼイ・レポートにしろ、マスターズとジョンソンの調査にしても、レポートの結果を、動物としての人間の標準として提出している。
つまり、このレポート結果が、人間なら誰でも同じように反応すると前提している。
それ自体が、男性的な視点によるのだ、と筆者は抗議する。

 セクシユアリティはもちろん、セックスは動物的な自然といった行為ではなく、人間の社会が創りだした文化遺産である。
だから、標準的なセックスということ自体が、その社会のバイアスがかかったものなのだ。
セックスは決して自然な行為ではない、と筆者はいう。

 精子と卵子が受精し、受精卵が女性の子宮で育ち、やがて出産にいたる。
これは生物的なメカニズムだから、自然といっても良いだろう。
しかし、どのように受精させるか、つまり、いつ、どんなセックスをするかは、それぞれの文化によって違うのだ。
にもかかわらず、自然科学的な観察を装ったセックス・レポートは、すべて男性支配の産物である。
これも今では、当然の意見であろう。

 では、どんなセックスが好ましいのかというと、残念ながら一般的な解答はない。
個別的にしか、問題は捉えられないというのが答えだろう。
 筆者は、ポルノかんして、次のようにいう。

 ポルノグラフィを敵対視する人は、ポルノグラフィの女性たちが自分の仕事をすることで深刻な害を被り、ポルノグラフィの撲滅が女性たちの劣悪な環境からの逃避を助けると言う。売買春をなくせば劣悪な環境から女性が逃げ出せるという同様な議論も繰り返し行われるが、実際に売春婦本人たちが自らについて繰り返し語るのは、安全かつ健康な労働環境の必要性であり、これ以上大きな烙印を押されることではない、と。P182

 筆者は、もちろんマッキノンやドウォーキンらには、批判的である。
アンドレ ア・ドウォーキンの「インターコース」は、当サイトでも扱っているが、彼女のポルノ論にかんしては批判的だった。
ラディカル・フェミニズムに批判的でありながら、そうとうに戦闘的であり、当時、我が国にもこうした意見があってほしかった。

 本書の後半で、男性の不能=インポについて、ずいぶんとページを割いている。
しかし、バイアグラが登場した今となっては、ちょっと興ざめである。  (2010.7.20) 

    感想・ご意見・反論など、掲示板にどうぞ
参考:
岡田秀子「反結婚論」亜紀書房、 1972
S・メルシオール=ボネ、A・トックヴィル「不倫の歴史 夢の幻想と現実の ゆくえ」原書房、2001
フラン・P・ホスケン「女子割礼:因習に呪縛される女性の性と人権」明石書店、1993
エヴァ・C・クールズ「ファロスの王国  T・U 古代ギリシャの性の政治学」岩波書店、1989
フランチェスコ・アルベローニ「エロティシズム」中央公論 1991
ジョルジュ・バタイユ「エロスの涙」ちくま学芸文庫、2001
オリビア・セント クレア「 ジョアンナの愛し方」 飛鳥新社、1992
謝国権「性生活の 知恵」池田書店、1960
生出泰一「みちのく よばい物語」光文社、2002
赤松啓介「夜這 いの民俗学」明石書店、1984
生出泰一「みちのく よばい物語」光文社、2002
福田和彦「閨の睦言」 現代書林、1983
田中優子「張形−江戸をんなの性」 河出書房新社、1999
佐藤哲郎「性器信仰の系 譜」三一書房、1995
アンドレア・ドウォーキン「イ ンターコース」青土社、1989
カミール・パーリア「セックス、アート、アメ リカンカルチャー」河出書房新社、1995
シャノン・ベル「売春という思想」青弓社、2001
シャノン・ベル「セックスワーカーの カーニバル」第三書館、2000
アラン・コルバン「娼婦」藤原 書店、1991
曽根ひろみ「娼婦と近世 社会」吉川弘文館、2003
アレクサ・アルバート「公 認売春宿」講談社、2002
バーン&ボニー・ブーロー「売春の社会史」 筑摩書房、1991
編著:松永呉一「売る売らないは ワタシが決める」ポット出版、2005
エレノア・ハーマン「王たちのセックス」 KKベストセラーズ 2005 
高橋 鐵「おとこごろし」 河出文庫、1992
正保ひろみ「男 の知らない女のセックス」河出文庫、2004
ロルフ・デーゲン「オルガスム スのウソ」文春文庫、2006
ロベール・ミュッシャンプレ「オルガス ムの歴史」作品社、2006
菜摘ひかる「恋は肉色」 光文社、2000
ヴィオレーヌ・ヴァノイエク「娼婦の歴史」 原書房、1997
ジャン・スタンジエ「自慰」原書房、 2001
ジュリー・ピークマン「庶民た ちのセックス」 KKベストセラーズ、2006
松園万亀雄「性の文脈」雄山閣、2003
ケイト・ミレット「性の政治学」ドメス出版、1985
山村不二夫「性技−実践講座」河 出文庫、1999
ディアドラ・N・マクロスキー「性転換」 文春文庫、2001
赤川学「性への自由/性か らの自由」青弓社、1996
佐藤哲郎「性器信仰の系 譜」三一書房、1996
ウィルヘルム・ライヒ「性と文化 の革命」勁草書房、1969
田中貴子「性愛の日本中 世」ちくま学芸文庫 2004
ロビン・ベイカー「セックス・ イン・ザ・フューチャー」紀伊國屋書店、2000
酒井あゆみ「セックス・エリート」 幻冬舎、2005  
大橋希「セックス・レスキュー」 新潮文庫、2006
アンナ・アルテール、ベリーヌ・シェルシェーヴ「体位の文化史」作品 社、2006
石川弘義、斉藤茂男、我妻洋「日本人の性」文芸春秋 社、1984 
石川武志「ヒジュラ」青弓社、 1995
村上弘義「真夜 中の裏文化」文芸社、2008 
赤松啓介「夜這 いの民俗学」明石書店、1994
岩永文夫「フーゾク進化論」平 凡社新書、2009
ビルギット・アダム「性病の世界史」 草思社、2003
メイカ ルー「バイアグラ時代」 作品社、2009
イヴ・エンスラー「ヴァギナ・モノロー グ」白水社、2002
岸田秀「性的唯幻論序説」文春文庫、1999
能町みね子「オカマだけどOLやってます」 文春文庫、2009
島田佳奈「人のオトコを奪る方法」大和文庫、2007
工藤美代子「快楽(けらく)」 中公文庫、2006
ジャン=ルイ・フランドラン「性と歴史」新評論、1987
レオノア・ティーフアー「セックスは自然な行為か?」新水社、1988

「匠雅音の家族について本を読む」のトップにもどる