著者の略歴−1950年生まれ。チェコスロヴアキア・カレル大学を経て73年からカナダに移住し、バンクーバーのコロンビア・カレッジ卒業。91年『工藤写真館の昭和』で講談社ノンフィクション賞を受賞。93年帰国。他の著書に『ラフカディオ・ハーンの生涯』(三部作)『日々是怪談』『野の人曾津八一』『海燃ゆ 山本五十六の生涯』『われ巣鴨に出頭せず 近衛文庫と天皇』『炎情熱年離婚と性』など多数。 年寄りというのは、だんだんと枯れてきて、色欲など脱するのかと思っていたら、女性が更年期もセックスを楽しみたい、という。 これでは若者とどこが違うのだろうか。 老人になっても欲望が旺盛では、人間ができないはずである。 何だかトンデモナイ時代に、なろうとしているように感じる。
そうは言っても、人間はいくつになっても、性の支配下にある。 セックスをしたければ、年齢に関係なく励むのは良いことだ、と思う。 更年期といえば、男性は勃起不全が襲い、なかなか安心してベッドに向かえなくなる。 バイアグラが発明されて、男性の救世主になった。 しかし、女性にはまた別の心配があるのだ、と本書はいう。 閉経期を過ぎると、子宮が小さくなり、膣への分泌が少なくなり、子供を産む自然の体制は撤退をはじめる。 子供を産む原因となる行為も止めるのかというと、それは続けたいという。 自然に反するわけだから、身体のほうが軋み始めることがある。 閉経後は膣の分泌が少ないので、性交痛といって、男性器の挿入時に痛みがあるらしい。 生理があるあいだは、妊娠の心配(?)があるので、避妊が必要である。 そのため、女性はセックスが楽しめないという声も聞く。 生理が終わると、今度はまた別の困難が襲ってくる。 女性とは、損な立場である。 40歳以上の女性の半数以上が性交痛に悩まされていることになる。 これはずいぶん深刻な問題といえる。 「ほぼ半世紀前の『避妊の要らない更年期以降こそ性生活を楽しめる時だ』という一方的な情報は、聞き取りの中で多くの女性を苦しめていたのだと知りました」と村崎先生は書いている。 P13 性といっても、本書が問題にしているのは、もっぱらセックスである。 夫婦には生活がかかっているので、セックスより日常が大切かと思うと、セックスも大事らしい。 「セックス・レスキュー」でも書かれていたが、「性の奉仕隊」に来るのは、専業主婦が多いという。 筆者の取材では50代の女性で、再婚でない限り、夫とセックスをしている主婦は1人もいないという。 それに対して、40代、50代で、不倫をしている女性は、既婚・未婚を問わずたくさんいたという。 やっぱりスゴイ時代になってきている。 更年期以降の女性は、婚外でセックスをするものらしい。 本書は、性交痛から女性がセックスを忌避する、と書き始めている。 しかし、読みすすむうちに、事情はそうではないようだと思えてくる。 筆者は、離婚こそしているが、再婚して幸福なセックス・ライフをおくっている。 結婚とは関係のない相手とセックスをするのは、女性を安売りするようで、筆者には耐えられないのだろう。 結婚してからセックスをすれば、女性は便利な女にならずにすむ、と筆者は考えているようだ。 筆者には結婚することが、大前提にあるようだ。 既婚者である筆者のセックスは常識の範囲らしく、本音が書かれていないように感じる。 やはりお互いに恋愛感情が伴ったセックスが理想的だということだ。しかし、その場合は不倫の関係が圧倒的に多い。私が今回、取材をして驚いたのもその点だった。結婚している更年期世代の女性が胸をときめかせてセックスをする相手は、99パーセント夫以外の男性だ。 そして女性が独身の場合、相手の男性は所帯持ちというケースがほとんどだった。P302 という事実をみながら、筆者は胸をときめかせてセックスをしている女性たちの味方ではない。 夫以外のセックスの相手になることは、相手の男にとっては、ますます都合の良い女になるってことじゃないか、と筆者はいう。 50代の女性は、誰も夫とセックスをしていないのだから、女性が都合のいい男性を求めるのは当然だろう。 女性が性的な被害者だ、と筆者は見なしている。 ここで女性を劣者とみる筆者の立場が出ている。 恋愛と生活は、次元の違うものだ。 だから、恋愛は生活の場では、長生きできない。 筆者は長年連れ添った夫と、ときめくセックスをしているらしい。 しかし、生活に埋没した夫婦に、ときめきを期待するのは難しい。 我が国の夫婦は、恋愛結婚だっとしても、何年もたてばお父さん・お母さんになってしまい、男女の関係は薄くなる。 そこでときめくセックスをせよといっても無理だ。 そうした夫婦関係に、筆者は目が届かないはずはないだろう。 江戸時代の日本人より現代の日本人はずっと孤独だ。それだけは間違いない事実だ。私は日常生活のなかで、無意識に家族とも友人とも、ある距離を取っていると自分で感じている。P268 と簡単に言ってしまう筆者は、人間関係に無神経である。 江戸時代は現代よりはるかに離婚が多く、離婚しても女性は再婚先に困らなかった。 江戸時代の女性は、現代よりずっと男性から自立していた。 専業主婦などいなかったから、女性も生活に埋没しなかっただろう。 性交痛から本書が始まっていながら、最後は何がいいたいのか、よく判らなくなった。 中高年のセックスという主題でありながら、結局は夫婦のセックスを奨励したかったのだろうか。 筆者の立場が不明なために隔靴掻痒に終わってしまった。 セックスに関して、男性を責める姿勢はもう止めよう。 女性も1人前の人間なのだ。 女性がセックスをすることを、男性への従属だと考えるから、婚外のセックスに応じるのは、都合のいい女と考えてしまうのだ。 男女は等価であり、都合のいい女性がいれば、都合のいい男性もいる。 どのような形であれ、セックスに自分で責任をとれば、誰とどんなセックスをしようが良いではないか。 アンドレア・ドウォーキンの「インターコース」からの影響があるのだろうか。 何となく大学フェミニズム臭を感じる。 快楽を<かいらく>と読ませずに、<けらく>と読ませるのには、なにか偽善的な意識が隠されているのではないか。 筆者が結婚制度を守る立場にたち、保守的な発言をするのは、どうも馴染めなかった。 「男の知らない女のセックス」のほうが真摯だし、 「人のオトコを奪る方法」のほうが、はるかに精神性が高く、大人の恋愛観だと思う。 (2009.9.13) 感想・ご意見・反論など、掲示板にどうぞ 参考: フランチェスコ・アルベローニ「エロティシズム」中央公論 1991 ジョルジュ・バタイユ「エロスの涙」ちくま学芸文庫、2001 オリビア・セント クレア「 ジョアンナの愛し方」飛鳥新社、1992 石坂晴海「掟やぶりの結婚道 既婚者にも恋愛を!」講談社文庫、2002 梅田功「悪戦苦闘ED日記」宝島社新書、2001 山村不二夫「性技 実践講座」河出文庫、1999 謝国権「性生活の知恵」池田書店、1960 清水ちなみ&OL委員会編「史上最低 元カレ コンテスト」幻冬舎文庫、2002 プッシー珠実「男を楽しむ女の性交マニュアル」データハウス、2002 生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002 赤松啓介「夜這いの民俗学」明石書店、1984 村上弘義「真夜中の裏文化」文芸社、2008 福田和彦「閨の睦言」現代書林、1983 田中優子「張形−江戸をんなの性」河出書房新社、1999 佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1995 アンドレア・ドウォーキン「インターコース」青土社、1989 カミール・パーリア「セックス、アート、アメリカンカルチャー」河出書房新社、1995 シャノン・ベル「セックスワーカーのカーニバル」第三書館、2000 シャノン・ベル「売春という思想」青弓社、2001 アラン・コルバン「娼婦」藤原書店、1991 曽根ひろみ「娼婦と近世社会」吉川弘文館、2003 アレクサ・アルバート「公認売春宿」講談社、2002 バーン&ボニー・ブーロー「売春の社会史」筑摩書房、1991 編著:松永呉一「売る売らないはワタシが決める」ポット出版、2005 エレノア・ハーマン「王たちのセックス」KKベストセラーズ 2005 高橋 鐵「おとこごろし」河出文庫、1992 正保ひろみ「男の知らない女のセックス」河出文庫、2004 ロルフ・デーゲン「オルガスムスのウソ」文春文庫、2006 ロベール・ミュッシャンプレ「オルガスムの歴史」作品社、2006 菜摘ひかる「恋は肉色」光文社、2000 ヴィオレーヌ・ヴァノイエク「娼婦の歴史」原書房、1997 ジャン・スタンジエ「自慰」原書房、2001 ジュリー・ピークマン「庶民たちのセックス」KKベストセラーズ、2006 松園万亀雄「性の文脈」雄山閣、2003 ケイト・ミレット「性の政治学」ドメス出版、1985 謝国権「性生活の知恵」池田書店、1960 山村不二夫「性技−実践講座」河出文庫、1999 ディアドラ・N・マクロスキー「性転換」文春文庫、2001 赤川学「性への自由/性からの自由」青弓社、1996 佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1996 ウィルヘルム・ライヒ「性と文化の革命」勁草書房、1969 田中貴子「性愛の日本中世」ちくま学芸文庫 2004 ロビン・ベイカー「セックス・イン・ザ・フューチャー」紀伊國屋書店、2000 酒井あゆみ「セックス・エリート」幻冬舎、2005 大橋希「セックス・レスキュー」新潮文庫、2006 アンナ・アルテール、ベリーヌ・シェルシェーヴ「体位の文化史」作品社、2006 石川弘義、斉藤茂男、我妻洋「日本人の性」文芸春秋社、1984 高月靖「南極1号伝説」バジリコ、2008 石川武志「ヒジュラ」青弓社、1995 佐々木忠「プラトニック・アニマル」幻冬社、1999 岩永文夫「フーゾク進化論」平凡社新書、2009 ビルギット・アダム「性病の世界史」草思社、2003 メイカ ルー「バイアグラ時代」作品社、2009 イヴ・エンスラー「ヴァギナ・モノローグ」白水社、2002 橋本秀雄「男でも女でもない性」青弓社、1998 エヴァ・C・クールズ「ファロスの王国」岩波書店、1989 岸田秀「性的唯幻論序説」文春文庫、1999 能町みね子「オカマだけどOLやってます」文春文庫、2009 島田佳奈「人のオトコを奪る方法」大和文庫、2007 工藤美代子「快楽(けらく)」中公文庫、2006
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