匠雅音の家族についてのブックレビュー    セックス・エリート−年収1億円、伝説の風俗嬢をさがして|酒井あゆみ

セックスエリート
年収1億円、伝説の風俗嬢をさがして
お奨度:

著者:酒井あゆみ(さかい あゆみ) 幻冬舎、2005年   ¥1500−

 著者の略歴−1971年福島県生まれ。上京後、18歳で風俗の世界に入り、ファッションヘルス、AV女優、ホテトル、性感マッサージ、契約愛人業などを経験する。著書に『東京夜の駆け込み寺』『眠らない女 昼はふつうの社会人、夜になると風俗嬢』『人妻風俗嬢』(以上すべて幻冬舎アウトロー文庫)などがある。

 性交そのものを売る売春が、主流だった時代と異なり、
現代では、様々な性風俗産業が誕生している。
本番、つまり性交しない風俗店のヘルスも、煎じ詰めていえば男性の性欲相手の産業である。
本書は、男性の性欲を相手とした仕事に従事する女性のなかで、ナンバーワンといわれたエリート女性を取材したものである。
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 サブタイトルにもあるように、売れっ子の風俗従事者は、とてつもない収入を得る。
もちろん、どんな領域でも腕利きは高給を稼ぐ。
スポーツの世界を見ても判るように、身体が元の仕事では、若い時代に高給を稼ぐのは、当然である。
男性と違って、女性は一晩で何人も相手することが可能だといっても、
性産業が肉体労働である以上、身体を酷使することであるには違いない。
売れっ子が高給取りになるのは当然である。

 かつてヘルスやソープランドで働いた筆者は、当時、指名をとることが難しかった、と回想する。
売春をしたことのない女性は、なすべき行為は同じだから、売春など簡単にできる。
自分も若かったら、いとも容易いことだったという。
こうした発言をする女性は、売春に限らず、働くことの意味が判っていない。
若いからと言って、売れっ子になれるとは限らない。

 岡田秀子さんが「反結婚論」でいうような「結婚への適応、家庭の維持、生殖などを含めた生活技術として行なわれるセックスは快楽ではなくて生理であり、精神性のなさにおいてワイセツである」性交の延長に、性労働として行われる性交を見ているのであろう。
どんな行為も、それがひとたび職業となった時、仕事が要求する規定性から逃れることはできない。

 性交は誰でもが行い、また行えることだからこそ、
性交を職業として行うには、いっそうの困難さが伴う。
売春を認めない中年女性が、たくさん生息する社会では、売春婦への差別意識にも晒される。
1人の女性が一生を生きるうえで、売春を職業とし続けるのは、
端から思うほど気楽なものではないだろう。
 
 わたしが働いていた時代とは違って供給過多の現在は、指名が取れない子はどんどんクビにされてしまう。応募の女の子は後を絶たないからだ。まさに女が消耗品の時代で、店側からしても「使えない」女の子を在籍させていては、店のイメージダウンにつながり、店の生命に関わる。一方で指名が取れる子は現場の従業員も口答えできないほどに大切にされる。つまり、同じように働いているのに、店の待遇に天と地はどの差ができるのだ。P22

と、ヘルスに勤務する女性にインタビューして言う。
需要と供給の原理は、どんな職業にも貫徹している。
性交そのものを売るソープランドとて例外ではない。
より高額なお金がかかるソープであれば、なお需要と供給の原理は厳しく働く。

 成果物を求められる職業と違い、快楽を売る職業は、単なる肉体的サービスを供給しても好評とは限らない。
あえて高いお金を出してまで、評判の美容室へ通うのは、髪を整える仕事が成果物にだけ負っていないからだ。
性産業の目的が射精させることだとすれば、美容師がもっている独自性の範囲より、売春婦のもっている独自性のほうがはるかに狭い。

 射精させるのは単純なことだ。
男性器をこすれば、男性は簡単に昇天してしまう。
どんな女性がこすっても、男性はほぼ射精に至る。
射精という快楽をあたえる仕事は、美容師やマッサージ師の仕事より、はるかに単純である。
売春婦には独自性を発揮する範囲が狭く、サービスを売る選択肢が少ない。
にもかかわらず、売れっ子の女性と、売れない女性が生まれる理由は何か。

 筆者は、性を売る職業で売れるには、心がけだという。
現役時代には、心がけができなかったから、指名をとれなかったのだと反省する。

 現役の時のわたしは、指名につながりにくい観光客と知れば、ここぞとばかりに手を抜いた。彼女たちのように大切に思ったことは一度もなかった。
 実は、指名客は心の支えだったと共に、憂鬱な存在でもあった。精神的に苦痛だった。サービスも毎回同じだと申し訳なく、飽きられるのでは、という恐怖心が生まれる。お店の源氏名のわたしにではなく、本名のわたしに入り込んでくる。上手くかわすことができなかったわたしは、フリーのお客を相手にしているはうが楽だった。機械のように同じ会話とサービスを繰り返していればよかったからだ。
 そんな堕落した考えのわたしでも、風俗誌という、いわゆるマスコミの力で、つかの間のナンバーワンになった時期もあった。天狗になったわたしは、雑誌の力で来た客を自分の実力と錯覚し、自分は美人なのかもとさえ勘違いした。P84


 射精の瞬間に、愚かな姿態を晒す男性をみていると、
普段は威張った男性たちが、信じられなくなるかも知れない。
しかし、社会的には立派な男性たちが、裸になって個室にいるとき、
風俗の女性たちは、男性が射精だけを求めているのではないと知る。
営業開始から10分で予約が埋まってしまう「怪物のような風俗嬢」が誇るものを、
筆者は顔や姿の美醜でもないし、性的なテクニックでもないという。

 同じ風俗嬢に通う男たちを虜にするものは、本気の恋心だという。
雄琴で新人女性の訓練係を勤める元ナンバーワンのソープ嬢に、次のように言わせている。

 「考えたあげく辿り着いた考えが『お客様をお客様と思わないこと』。お客様ではなく、自分の彼氏。彼氏が自分のお部屋に遊びに来た、みたいな感覚で接客しました。そうすれば何にもしなくても身体が反応してくる。体調の関係で反応しなかったら、玩具を使ったり、AVを見たり。本当に普通のカップルがしていることと同じことをしてた。P188

 売春婦たちは自分の力で稼いでおり、専業主婦のように寄生虫ではない。
いまだに売春反対を叫ぶ中年女性や老女たちがいるが、
彼女たちは自分の性を売る可能性が零だから、対岸の火事として見ているのだろう。
彼女たちは自分の心と身体に自信がないので、売春反対というのだ。

 性産業従事者として、女性たちは必死で働いている。
彼女たちは歴とした肉体労働者である。
本書がいうことは、ほぼ納得できる。
ただちょっと気になったのは、飛行場で筆者を責めて土下座させるような男性と、なぜ同居して続けているのか理解に苦しむ。
(2005.07.23)

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参考:
岸田秀「性的唯幻論序説」文春文庫、1999
フランチェスコ・アルベローニ「エロティシズム」中央公論 1991

ジョルジュ・バタイユ「エロスの涙」ちくま学芸文庫、2001
オリビア・セント クレア「 ジョアンナの愛し方」飛鳥新社、1992
石坂晴海「掟やぶりの結婚道 既婚者にも恋愛を!」講談社文庫、2002
梅田功「悪戦苦闘ED日記」宝島社新書、2001
山村不二夫「性技 実践講座」河出文庫、1999

謝国権「性生活の知恵」池田書店、1960
清水ちなみ&OL委員会編「史上最低 元カレ コンテスト幻冬舎文庫、2002

プッシー珠実「男を楽しむ女の性交マニュアル」データハウス、2002
生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002
赤松啓介「夜這いの民俗学」明石書店、1984
生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002
福田和彦「閨の睦言」現代書林、1983
田中優子「張形−江戸をんなの性」河出書房新社、1999
佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1995
アンドレア・ドウォーキン「インターコース」青土社、1989
カミール・パーリア「セックス、アート、アメリカンカルチャー」河出書房新社、1995
シャノン・ベル「売春という思想」青弓社、2001
シャノン・ベル「セックスワーカーのカーニバル」第三書館、2000
アラン・コルバン「娼婦」藤原書店、1991
曽根ひろみ「娼婦と近世社会」吉川弘文館、2003
アレクサ・アルバート「公認売春宿」講談社、2002
バーン&ボニー・ブーロー「売春の社会史」筑摩書房、1991
編著:松永呉一「売る売らないはワタシが決める」ポット出版、2005
エレノア・ハーマン「王たちのセックス」KKベストセラーズ 2005 
高橋 鐵「おとこごろし」河出文庫、1992
正保ひろみ「男の知らない女のセックス」河出文庫、2004
ロルフ・デーゲン「オルガスムスのウソ」文春文庫、2006
ロベール・ミュッシャンプレ「オルガスムの歴史」作品社、2006
菜摘ひかる「恋は肉色」光文社、2000
ヴィオレーヌ・ヴァノイエク「娼婦の歴史」原書房、1997
ジャン・スタンジエ「自慰」原書房、2001
ジュリー・ピークマン「庶民たちのセックス」KKベストセラーズ、2006
松園万亀雄「性の文脈」雄山閣、2003
ケイト・ミレット「性の政治学」ドメス出版、1985
謝国権「性生活の知恵」池田書店、1960
山村不二夫「性技−実践講座」河出文庫、1999
ディアドラ・N・マクロスキー「性転換」文春文庫、2001
赤川学「性への自由/性からの自由」青弓社、1996
佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1996
ウィルヘルム・ライヒ「性と文化の革命」勁草書房、1969
田中貴子「性愛の日本中世」ちくま学芸文庫 2004
ロビン・ベイカー「セックス・イン・ザ・フューチャー」紀伊國屋書店、2000
酒井あゆみ「セックス・エリート」幻冬舎、2005  
大橋希「セックス・レスキュー」新潮文庫、2006
アンナ・アルテール、ベリーヌ・シェルシェーヴ「体位の文化史」作品社、2006
石川弘義、斉藤茂男、我妻洋「日本人の性」文芸春秋社、1984 
高月靖「南極1号伝説」バジリコ、2008
石川武志「ヒジュラ」青弓社、1995
佐々木忠「プラトニック・アニマル」幻冬社、1999
生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002
村上弘義「真夜中の裏文化」文芸社、2008 
赤松啓介「夜這いの民俗学」明石書店、1994
岩永文夫「フーゾク進化論」平凡社新書、2009
ビルギット・アダム「性病の世界史」草思社、2003
メイカ ルー「バイアグラ時代」作品社、2009
白倉敬彦「江戸の春画」洋泉社、2002
田中優子「張形−江戸をんなの性」河出書房新社、1999
パット・カリフィア他「ポルノと検閲」青弓社、2002

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