匠雅音の家族についてのブックレビュー    プラトニック・アニマル−SEXの新しい快感基準|佐々木忠

プラトニック・アニマル
SEXの新しい快感基準
お奨め度:

著者:佐々木忠 (ささきただし)−幻冬社、1999 ¥560−

著者の略歴−1938年福岡生まれ。「ザ・オナニー」「性感極秘テクニック」「いんらんパフォーマンス」「目かくしFUCK」「チャネリングFUCK」など、虚偽を排して男女の性を極限まで見つめた先鋭的な作品により、つねにSEXの新しい可能性を切り拓いてきた。"AV界の巨匠"として絶大なる支持と評価を得ている所以である。
 ビデオの中で、どんな女性にもオーガズムを体験させてしまうその腕前は、
まさに"神業"と呼ぶにふさわしい。
心の奥底までを写し取るドキュメンタリーの手法で、
性とは、愛とは、人間とは何かを探求しつづける求道者である。
と本書は、筆者の経歴を紹介している。
本書は、セックスのうちから快感だけを、とりだしてみようという試みである。

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 セックスとは子孫を得るためにしたのだろうか。
そうではあるまい。
セックスには快感が伴ったので、あたかも快感を求めてセックスをしたように思いがちである。
それも違って、快感を求めてセックスをしたのでもない。
子孫の誕生や快感は、セックスの結果である。
本来セックスは、男女間のコミュニケーションだったはずである。

 本書では、本当のオーガズムとは何かを考え、どのようにしたらそれが 体験できるのかを追求したい。しかし、その方法論は従来のSEXのマニュ アルとは根本的に異なる。そこには高度なオーラルSEXも必要なければ、数多くの体位も無用である。だれにでも可能な方法でいくつかのアプロー チを試みてみたい。恥ずかしながらそれは、私がピンク映画の世界に足を 突っ込んで以来、4半世紀で獲得した性に関する理論と方法のすべてで ある。(P34)

という筆者は、若いときには九州地方を中心にして、ストリップのどさ廻りをしていた。
ストリップから彼が次に足を踏み入れた世界が、ピンク映画だったのである。
ピンク映画からAVになり、この世界はますます過激になっている。
いまでは監督自らがモデルの女性とセックスをして、
それを監督の頭につけたヴィデオ・カメラで撮影するといった作品すらでている。

 筆者が活躍したのは、その過渡期にあたった。
ピンク映画は、女優さんがセックスの演技をしたのだが、
いまではカメラの前で演技ではないセックスが、演じられるようになった。
ほんとうにセックスしているところを、カメラにとっている時代である。
ピンクといわれても、演技をしているから映画であるが、AVは映画ではない。一種の記録である。

 オーガズムとは、制度の世界で自己を維持している自我からの解放であるという。
エゴの崩壊、エゴの死こそ、オーガズムだと筆者はいう。
だから、次のような発言になる。

 SEXが楽しめなければ、オーガズムを体験できるわけがない。見栄やプライドが捨てられなければ、オーガズムを体験できるわけがない。自分の弱みを握られまいとしながら、オーガズムを体験できるわけがない。人によく思われたいと思っていて、オーガズムを体験できるわけがない。SEXに一抹のやましさを覚えていて、オーガズムを体験できるわけがない。P54

 男性にとって射精も快感には違いないが、男性のオーガズムは射精ではないと筆者はいう。
ほんとうのオーガズムを体験すると、男性も失神するらしい。
男性は女性以上に、かくあらねばならないと思っており、
制度からの強い締め付けが内面化されている。
そのために、女性よりも男性のほうが、セックスでイケないのだと筆者は言う。

 確かに自我への締め付けは、男性のほうがはるかに強い。
なにせ男性は女性の支配者なのだから、立派に立っていなければならない。
男性は弱みを見せることはできない。
強い生き物こそ男性だと、社会から教育されている。
自我を解放するのは、男性のほうが困難であることは判る。

 しかし、セックスにおける快感とは、ほんとうのところが何だか判らない。
オーガズムは体験であり、感じるものである。
だから、論理で理解することはできない。
そうである以上、筆者の論もまた仮説の域をでないのではないだろうか。

 しかも、男性がオーガズムを入手する方法として、次のように言う。

 男女関係のコツは自分が主導権を握らないことだ。負けるが勝ちなのである。夫は妻に、彼は彼女に、主導権を握らせてみる。男はその中で漂えばいい。女が決めた仕切の中で、言われることをハイハイと聞いていればいい。最初はオレの考えと違うなと思っても、かまわず女の意見をどんどん肯定していくと、ある時点から自分のやりたいことが要求しなくても叶うようになってくる。P177

 セックスが2人でするものである以上、思いやりが必要かというと、筆者はそれを否定する。
究極のセックスとは、相手に何かしてあげようとするのではなく、
自分がその瞬間を楽しむしかない。
自分が楽しみ、それによって気持ちよくなるのだ、という。
何だか判ったような判らないような話である。

 巷間にはセックスにかんする本があふれている。
誰もがセックスを求め、快感を得たいと思っている。
こうすれば、女性にもているといった本だけではなく、
女性に感じさせることができるとか、セックスそのものの本も多い。
多くは男性から女性への働きかけを説くものだが、なかには女性から男性へのものもある。

 セックスと愛情は関係ない。
愛情のない充実したセックスもあるし、愛に満ちた貧弱なセックスもある。
それはどうやら理解され、共有され始めた。
それでは、人はセックスを求めているのだろうか、それとも愛を求めているのだろうか。
そのあたりがよく判らない。

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参考:
岡田秀子「反結婚論」亜紀書房、1972
S・メルシオール=ボネ、A・トックヴィル「不倫の歴史 夢の幻想と現実のゆくえ」原書房、2001
顧蓉、葛金芳「宦官 中国四千年を操った異形の集団」徳間文庫、2000
フラン・P・ホスケン「女子割礼:因習に呪縛される女性の性と人権」明石書店、1993
エヴァ・C・クールズ「ファロスの王国 T・U 古代ギリシャの性の政治学」岩波書店、1989
田中優子「張形 江戸をんなの性」河出書房新社、1999
フランチェスコ・アルベローニ「エロティシズム」中央公論 1991
ジョルジュ・バタイユ「エロスの涙」ちくま学芸文庫、2001
オリビア・セント クレア「 ジョアンナの愛し方」飛鳥新社、1992
石坂晴海「掟やぶりの結婚道 既婚者にも恋愛を!」講談社文庫、2002
梅田功「悪戦苦闘ED日記」宝島社新書、2001
山村不二夫「性技 実践講座」河出文庫、1999
謝国権「性生活の知恵」池田書店、1960
清水ちなみ&OL委員会編「史上最低 元カレ コンテスト」幻冬舎文庫、2002
プッシー珠実「男を楽しむ女の性交マニュアル」データハウス、2002
生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002
赤松啓介「夜這いの民俗学」明石書店、1984
生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002
福田和彦「閨の睦言」現代書林、1983
田中優子「張形−江戸をんなの性」河出書房新社、1999
佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1995
アンドレア・ドウォーキン「インターコース」青土社、1989
カミール・パーリア「セックス、アート、アメリカンカルチャー」河出書房新社、1995
シャノン・ベル「売春という思想」青弓社、2001
シャノン・ベル「セックスワーカーのカーニバル」第三書館、2000
アラン・コルバン「娼婦」藤原書店、1991
曽根ひろみ「娼婦と近世社会」吉川弘文館、2003
アレクサ・アルバート「公認売春宿」講談社、2002
バーン&ボニー・ブーロー「売春の社会史」筑摩書房、1991
編著:松永呉一「売る売らないはワタシが決める」ポット出版、2005
エレノア・ハーマン「王たちのセックス」KKベストセラーズ 2005 
高橋 鐵「おとこごろし」河出文庫、1992
正保ひろみ「男の知らない女のセックス」河出文庫、2004
ロルフ・デーゲン「オルガスムスのウソ」文春文庫、2006
ロベール・ミュッシャンプレ「オルガスムの歴史」作品社、2006
菜摘ひかる「恋は肉色」光文社、2000
ヴィオレーヌ・ヴァノイエク「娼婦の歴史」原書房、1997
ジャン・スタンジエ「自慰」原書房、2001
ジュリー・ピークマン「庶民たちのセックス」 KKベストセラーズ、2006
松園万亀雄「性の文脈」雄山閣、2003
ケイト・ミレット「性の政治学」ドメス出版、1985
謝国権「性生活の知恵」池田書店、1960
山村不二夫「性技−実践講座」河出文庫、1999
ディアドラ・N・マクロスキー「性転換」文春文庫、2001
赤川学「性への自由/性からの自由」青弓社、1996
佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1996
ウィルヘルム・ライヒ「性と文化の革命」勁草書房、1969
田中貴子「性愛の日本中世」ちくま学芸文庫 2004
ロビン・ベイカー「セックス・イン・ザ・フューチャー」紀伊國屋書店、2000
酒井あゆみ「セックス・エリート」幻冬舎、2005  
大橋希「セックス・レスキュー」新潮文庫、2006
アンナ・アルテール、ベリーヌ・シェルシェーヴ「体位の文化史」作品社、2006
石川弘義、斉藤茂男、我妻洋「日本人の性」文芸春秋社、1984 
高月靖「南極1号伝説」バジリコ、2008
石川武志「ヒジュラ」青弓社、1995
佐々木忠「プラトニック・アニマル」幻冬社、1999
生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002
村上弘義「真夜中の裏文化」文芸社、2008 
赤松啓介「夜這いの民俗学」明石書店、1994
岩永文夫「フーゾク進化論」平凡社新書、2009
ビルギット・アダム「性病の世界史」草思社、2003
メイカ ルー「バイアグラ時代」作品社、2009
イヴ・エンスラー「ヴァギナ・モノローグ」白水社、2002
橋本秀雄「男でも女でもない性」青弓社、1998
エヴァ・C・クールズ「ファロスの王国」岩波書店、1989
岸田秀「性的唯幻論序説」文春文庫、1999
能町みね子「オカマだけどOLやってます」文春文庫、2009
島田佳奈「人のオトコを奪る方法」大和文庫、2007
工藤美代子「快楽(けらく)」中公文庫、2006

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