匠雅音の家族についてのブックレビュー人の    オトコを奪る方法−自己責任恋愛論|島田佳奈

 人のオトコを奪る方法
自己責任恋愛論
お奨度:

著者:島田佳奈(しまだ かな)   大和文庫 2009(2007)年 ¥552−

著者の略歴− コラムニスト。小説家。4月3日生まれ。おひつじ座のB型。モデル・OL・キャバ嬢・バイヤー・広告代理店・SEなどさまざまな仕手を経験したのち、著述業に転身。現在は、雑誌・TV・Web・モバイルコンテンツなど多方面で活躍中。『コントラスト〜あなたしか愛せない〜』(竹書房)、『女豹本!〜狙ったオトコを必ず射止める60のテク〜』(ベストセラーズ)、『運がよくなるお引越し』(中経出版)、『「アブナイ恋」を「運命の恋」に変える!』(モバイルメディアリサーチ)など、著書多数。●公式サイト【Sweet Bitter Choco】http://shimadakana.net/ ●公式ブログ【夜明けのショコラ。】 http://blog.livedoor.jp/shimadakana/ 
 穏やかではない書名だが、内容はいたって真面目である。
際物めいた仕立てが、真面目な書評からは、冷たい扱いを受けているかも知れない。
しかし、きわめて精神性の強い恋愛論で、本書が女性によって書かれたことが、良い時代になっている証拠であろう。
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人のオトコを奪(と)る方法

 筆者は、<婚外恋愛><略奪恋愛><複数恋愛><愛人>などを経験し、いずれも世間からは後ろ指をさされてきたという。
しかし、恋愛とは本来、結婚制度とは次元の違うものだ。
貴族たちは世継ぎを残すために結婚した。
つまり、結婚とは精神的なものではなく、ただ財産や権力を守るためになされた。
それに対して、恋愛は<好き>だという気持ちの表れで、結婚とは別になされたのだ。
 
 近代に入って、工業社会の労働者をつくるためには、核家族が適していたので、恋愛と結婚を連続したものにした。
1人の男に1人の女をつがわせると、男たちはよく働いた。
だから恋愛→結婚を賛美したに過ぎない。
しかも、初期の工業社会は、女性には職業を用意できなかったので、専業主婦にして浮気を封じたのだ。
しかし、男たちには買春を黙認して、性の二重規範を作った。

 かつて国民皆婚の時代には、婚前交渉などという言葉があり、セックスと結婚が一体化していた。
もっといえば、恋愛→結婚→セックスと流れるのが、正当な行動であった。
恋愛だけして結婚しないのも許されなかったし、セックスだけして結婚しないのは、最悪で犯罪者呼ばわりされた。

 恋愛とは恋している精神状態なのであって、結婚制度いいかえると生活とは無関係である。
かなり自由に行動している筆者だが、まだ工業社会の倫理から自由になっていない。
そのため、自己責任恋愛論といった副題をつけている。
恋愛を恋愛として楽しむことに、やや後ろめたさを感じているようだ。
恋愛はつねに恋し続ける心であって、生活上の終着点はない。
にもかかわらず、恋愛が成就する時点を想定しているのが気にかかる。

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 ここで、島田佳奈の豊富(?)な経験から定義した、浮気と本気における法則を。
@ 「浮気」は「本気」に転じるが、「本気」は「浮気」に転じない
  浮気とは、言葉の通り「浮ついた恋」。
 昨日まで「浮気」だったとしても、たった今「本気」に変化する可能性を秘めているのです。
 逆に、一度本気で愛した相手を、浮気に格下げすることはありえません。
 それは、自分の彼氏に置き換えて考えればわかりますよね。
 本気で愛した相手への気持ちが冷めたときは、倦怠期になるか別れるかしか、選択肢は考え付かないものなのです。
 つまりは、後から割って入ったあなたという立場は、本命の彼女と彼が別れ、かつ彼があなたを本気で愛するモードに切り替わらない限り、浮気の域を脱しないんです。
もちろん、それはあなたと彼次第ですけどね☆ P66


 筆者の言う通りだとは思う。
しかし、恋愛が本気になったとして、その後どうなるというのだろう。
恋愛とはその時を共に生きるものであり、心の状態である。
離ればなれのときには、相手を独占しようがないではないか。
相手の気持ちじゃなくて、自分の気持ちが恋愛しているのだから、本気の恋愛の先とはどんな状態なのだろうか。

 筆者も恋愛を恋している精神状態として考えており、肉体関係ともちょっと違うものとして捉えている。
セックスをしたからといって、恋人になったとも、傷物になったとも考えていない。
むしろ、恋愛とセックスを分けることによって、恋愛の精神性を高めている。
セフレをもちながら、恋人をもつのもOKだという。
当然であろう。

 セックスには何よりも健康な肉体が必要だが、恋愛には肉体よりも精神が必要なのだ。
いままで男性は買春してきたのだから、女性だってセックスだけを味わっても良いと思う。
筆者のような発言が可能になった背景は、女性が職業につき、独自の収入を得たからだ。
無収入の専業主婦なら、こんなことは公言できない。

 複数のオトコと仲良くすることは、決してそのオトコと彼を同じ位置に置くことではありません(もちろん完全にフタマタ状態で、行ったりきたり……というケースもあるとは思いますが)。入り口段階では、おそらく異なるポジションに存在しているはず。
 あなたが今の彼氏に対して物足りないと思う部分を、満たすオトコと出逢ったのなら、そっちとも仲良くしたって、いいと思いません?
 年上のオトコと、年下のBF。
 仕事はできるけど、その分忙しくて逢えないオトコと、フリーターで稼ぎは少ないけど、いつでも駆けつけてくれるマメなオトコ。
 SEXに淡白なオトコと、相性だけはいいセフレ。
 魅力的なオトコならば、誘われるばかりでなく、あなたが誘ってもいいのです。
 そうして複数のオトコによって欲求を満たしているうちに、きっとあなたは気づくはずです。
 必要なものと、なくても困らないもの。あなたの心の中にある、オトコへの愛情の種類と、愛だけじゃ片付けられない、必要な条件。
 いろんなオトコと関わることは、他でもない、あなた自身を知る作業でもあるのです。 P95


 収入のない者は、生活を支えられないから、恋愛の主導権を握ることはできない。
女性に職業がなかったので、いままで女性は待つ存在で、男性が与える立場だった。
そうした時代に教育を受けてきたので、多くの人はどうしても女性が受け身で、男性が働きかけるという発想から抜け出せない。
しかし、女性も職業人になり、男性とならぶようになった。

 これから女性は、男性のライバルにもなるだろうが、ほんとうの友人にもなれるようになった。
男女が等価な人間になったので、ほんとうの恋愛もできるようになった。
本書からは女性の成熟を感じる。
しかし、恋愛と生活は別次元のモノだから、生活に足をすくわれないように気をつけよう。
  (2009.9.5) 
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参考:
フランチェスコ・アルベローニ「エロティシズム」中央公論 1991
ジョルジュ・バタイユ「エロスの涙」ちくま学芸文庫、2001
オリビア・セント クレア「 ジョアンナの愛し方」飛鳥新社、1992
石坂晴海「掟やぶりの結婚道 既婚者にも恋愛を!」講談社文庫、2002
梅田功「悪戦苦闘ED日記」宝島社新書、2001
山村不二夫「性技 実践講座」河出文庫、1999

謝国権「性生活の知恵」池田書店、1960
清水ちなみ&OL委員会編「史上最低 元カレ コンテスト幻冬舎文庫、2002

プッシー珠実「男を楽しむ女の性交マニュアル」データハウス、2002
生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002
赤松啓介「夜這いの民俗学」明石書店、1984
生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002
福田和彦「閨の睦言」現代書林、1983
田中優子「張形−江戸をんなの性」河出書房新社、1999
佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1995
アンドレア・ドウォーキン「インターコース」青土社、1989
カミール・パーリア「セックス、アート、アメリカンカルチャー」河出書房新社、1995
シャノン・ベル「売春という思想」青弓社、2001
シャノン・ベル「セックスワーカーのカーニバル」第三書館、2000
アラン・コルバン「娼婦」藤原書店、1991
曽根ひろみ「娼婦と近世社会」吉川弘文館、2003
アレクサ・アルバート「公認売春宿」講談社、2002
バーン&ボニー・ブーロー「売春の社会史」筑摩書房、1991
編著:松永呉一「売る売らないはワタシが決める」ポット出版、2005
エレノア・ハーマン「王たちのセックス」KKベストセラーズ 2005 
高橋 鐵「おとこごろし」河出文庫、1992
正保ひろみ「男の知らない女のセックス」河出文庫、2004
ロルフ・デーゲン「オルガスムスのウソ」文春文庫、2006
ロベール・ミュッシャンプレ「オルガスムの歴史」作品社、2006
菜摘ひかる「恋は肉色」光文社、2000
ヴィオレーヌ・ヴァノイエク「娼婦の歴史」原書房、1997
ジャン・スタンジエ「自慰」原書房、2001
ジュリー・ピークマン「庶民たちのセックス」KKベストセラーズ、2006
松園万亀雄「性の文脈」雄山閣、2003
ケイト・ミレット「性の政治学」ドメス出版、1985
謝国権「性生活の知恵」池田書店、1960
山村不二夫「性技−実践講座」河出文庫、1999
ディアドラ・N・マクロスキー「性転換」文春文庫、2001
赤川学「性への自由/性からの自由」青弓社、1996
佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1996
ウィルヘルム・ライヒ「性と文化の革命」勁草書房、1969
田中貴子「性愛の日本中世」ちくま学芸文庫 2004
ロビン・ベイカー「セックス・イン・ザ・フューチャー」紀伊國屋書店、2000
酒井あゆみ「セックス・エリート」幻冬舎、2005  
大橋希「セックス・レスキュー」新潮文庫、2006
アンナ・アルテール、ベリーヌ・シェルシェーヴ「体位の文化史」作品社、2006
石川弘義、斉藤茂男、我妻洋「日本人の性」文芸春秋社、1984 
高月靖「南極1号伝説」バジリコ、2008
石川武志「ヒジュラ」青弓社、1995
佐々木忠「プラトニック・アニマル」幻冬社、1999
生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002
村上弘義「真夜中の裏文化」文芸社、2008 
赤松啓介「夜這いの民俗学」明石書店、1994
岩永文夫「フーゾク進化論」平凡社新書、2009
ビルギット・アダム「性病の世界史」草思社、2003
メイカ ルー「バイアグラ時代」作品社、2009
イヴ・エンスラー「ヴァギナ・モノローグ」白水社、2002

橋本秀雄「男でも女でもない性」青弓社、1998

エヴァ・C・クールズ「ファロスの王国」岩波書店、1989

岸田秀「性的唯幻論序説」文春文庫、1999
能町みね子「オカマだけどOLやってます」文春文庫、2009

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