著者の略歴−1981年までボルチモアのツーソン州立大学にてジャーナリズムを専攻し、そののち、ヨーロッパ諸国にて各国言語を学ぶ。これまで多くの論文を発表し、1989年から2002年までボンの出版社に勤務。現在はフリーのライターとしてヴァージニア州アレタサンドリアに住んでいる。 20世紀に入るまで、支配者の頂点には、王様が座っていた。 王は強大な権限を手中にして、欲しいままに支配権を行使した、と考えられがちである。 しかし、身分制の貫徹していた時代には、現代からでは想像もつかない事実があった。 王制は世襲制だったから、王は跡継ぎが不可欠だった。 ほとんどの場合、王の結婚生活は極端に不幸なものだった。だからこそ、寵姫の栄える環境が生まれたのだ。君主の婚礼は国をあげての盛大な祝い事である。だが祭壇の前にひざまずく二人にとって、たいていそれはわが身を犠牲に捧げることであり、私生活での深刻な悲劇のはじまりでもあった。王室同士が結びつくことの意味と目的は、新郎新婦の幸せな生活でも、愛に満ちたセックスでもなかった。基本的に両者が合意する必要すらなかった。重要なのは世継ぎの誕生、ただそれだけである。花嫁とともに通商協定と持参金がやって来れば、さらに好都合であった。P30
と、筆者は書いている。 王の行動は、厳しい規則でがんじがらめであり、自由に行動する余地はほとんどなかった。 それは現在の天皇たちを見ていれば、よくわかるだろう。 そのうえ、昔は掟を無視すれば、自国民だけではなく、外国からも嘲笑された。 そして、たちまち国家が存亡の危機に立たされた。 王の結婚は、政略結婚であり、国家存続が第一目的だった。 肖像画による見合い結婚だったから、相手になるお后には、愛情を感じるヒマもない。 とてつもなく脚色された肖像画は、本人とはほど遠いものだった。 相手の美醜はもちろん、出産可能であれば、年齢も問題にされなかった。 だいたい結婚に愛情が必要だとは、本人たちを含めて誰も考えていなかった。 政略結婚だったから、お后のほうでも、王に気に入られるための努力など、まったくするつもりもなかった。 ただ、王の子供を、産みさえすれば良かった。 これではセックスも味気ない。 しかし、お后のほうにも理由はある。
そんなこんなで、王は美しい寵姫をもつにいたる。 寵姫とはお妾さんのことである。 正当性をもたない寵姫は、王の気持ちだけが自分の存在基盤である。 王の愛情が冷めれば、彼女はたちまちお払い箱。 そこで寵姫は、必死で王の期待に応えようとする。 王の寵愛は、王妃から寵姫にむかうのは、避けがたいことだった、と筆者は言う。 ちなみに筆者は女性である。 第2次大戦後、王制は極端に減った。 しかし、まだ王制が残っている。 イギリスのチャールズ王子とダイアナ妃の結婚について、筆者は次のように書いている。 ダイアナは17世紀に生きているわけではない。彼女は完全に現代の女性であり、チャールズは自分を愛してくれていて、だから結婚するのだと本当に信じていた。ダイアナは、かの王室の掟を知らなかった。寵姫の存在は既成事実として容認され、愛されない王妃はその事実に威厳をもって耐えねばならないという掟を。ダイアナはまた、自分の人生がチャールズによって満たされることをも望んだ。チャールズに出会うまで、彼女は人生の目的も見出せず、孤独に苦しみながら生きてきたのだから。P356 ノルウェーの皇太子ホーコンは、自分が選んだ子連れの女性と結婚した。 オランダの皇太子ウィレムが、アルゼンチンの女性マクシマ・ゾルギエタと結婚した。 マクシマの父親は、故国で3万人の国民を拷問し、殺害した軍事政権に関与していた。 彼女の結婚は認められたが、父親はオランダへの入国を拒否された。 王制への義務感から、愛のない結婚をしたのは、チャールズが最後だろう、と筆者は言う。 しかし、愛情によって結婚すれば、離婚という危機にもまた直面せざるをえない。 国家への義務から、愛のない結婚を強制されていた時代では、世間は愛人をもつことに寛容だった。 女性にとって国王や王子は、魅力的に見えるもの。 官能的な女性が、王に迫ることは充分に考えられる。 愛情によって結婚した王たちが、愛人をつくったら、世間はどのように対応するだろうか。 本音で生きなければならない社会とは、反対の意味で厳しい社会である。 (2008.1.14)
参考: 岸田秀「性的唯幻論序説」文春文庫、1999 フランチェスコ・アルベローニ「エロティシズム」中央公論 1991 ジョルジュ・バタイユ「エロスの涙」ちくま学芸文庫、2001 オリビア・セント クレア「 ジョアンナの愛し方」飛鳥新社、1992 石坂晴海「掟やぶりの結婚道 既婚者にも恋愛を!」講談社文庫、2002 梅田功「悪戦苦闘ED日記」宝島社新書、2001 山村不二夫「性技 実践講座」河出文庫、1999 謝国権「性生活の知恵」池田書店、1960 清水ちなみ&OL委員会編「史上最低 元カレ コンテスト」幻冬舎文庫、2002 プッシー珠実「男を楽しむ女の性交マニュアル」データハウス、2002 生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002 赤松啓介「夜這いの民俗学」明石書店、1984 生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002 福田和彦「閨の睦言」現代書林、1983 田中優子「張形−江戸をんなの性」河出書房新社、1999 佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1995 アンドレア・ドウォーキン「インターコース」青土社、1989 カミール・パーリア「セックス、アート、アメリカンカルチャー」河出書房新社、1995 シャノン・ベル「売春という思想」青弓社、2001 シャノン・ベル「セックスワーカーのカーニバル」第三書館、2000 アラン・コルバン「娼婦」藤原書店、1991 曽根ひろみ「娼婦と近世社会」吉川弘文館、2003 アレクサ・アルバート「公認売春宿」講談社、2002 バーン&ボニー・ブーロー「売春の社会史」筑摩書房、1991 編著:松永呉一「売る売らないはワタシが決める」ポット出版、2005 エレノア・ハーマン「王たちのセックス」KKベストセラーズ 2005 高橋 鐵「おとこごろし」河出文庫、1992 正保ひろみ「男の知らない女のセックス」河出文庫、2004 ロルフ・デーゲン「オルガスムスのウソ」文春文庫、2006 ロベール・ミュッシャンプレ「オルガスムの歴史」作品社、2006 菜摘ひかる「恋は肉色」光文社、2000 ヴィオレーヌ・ヴァノイエク「娼婦の歴史」原書房、1997 ジャン・スタンジエ「自慰」原書房、2001 ジュリー・ピークマン「庶民たちのセックス」KKベストセラーズ、2006 松園万亀雄「性の文脈」雄山閣、2003 ケイト・ミレット「性の政治学」ドメス出版、1985 謝国権「性生活の知恵」池田書店、1960 山村不二夫「性技−実践講座」河出文庫、1999 ディアドラ・N・マクロスキー「性転換」文春文庫、2001 赤川学「性への自由/性からの自由」青弓社、1996 佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1996 ウィルヘルム・ライヒ「性と文化の革命」勁草書房、1969 田中貴子「性愛の日本中世」ちくま学芸文庫 2004 ロビン・ベイカー「セックス・イン・ザ・フューチャー」紀伊國屋書店、2000 酒井あゆみ「セックス・エリート」幻冬舎、2005 大橋希「セックス・レスキュー」新潮文庫、2006 アンナ・アルテール、ベリーヌ・シェルシェーヴ「体位の文化史」作品社、2006 石川弘義、斉藤茂男、我妻洋「日本人の性」文芸春秋社、1984 高月靖「南極1号伝説」バジリコ、2008 石川武志「ヒジュラ」青弓社、1995 佐々木忠「プラトニック・アニマル」幻冬社、1999 生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002 村上弘義「真夜中の裏文化」文芸社、2008 赤松啓介「夜這いの民俗学」明石書店、1994 岩永文夫「フーゾク進化論」平凡社新書、2009 ビルギット・アダム「性病の世界史」草思社、2003 メイカ ルー「バイアグラ時代」作品社、2009 白倉敬彦「江戸の春画」洋泉社、2002 田中優子「張形−江戸をんなの性」河出書房新社、1999 パット・カリフィア他「ポルノと検閲」青弓社、2002 匠雅音「性差を超えて」新泉社、1992
|