著者の略歴− パット・カリフィア:性的ポリティクスに関して広範に執筆しているレズビアン・フェミニスト。露骨な短篇小説集、「Macho Sluts(マッチョな売女:仮題)」執筆中。/リサ・ダガン:ニューヨーク市在住の文筆家・歴史家。検閲に反対するフェミニスト特別調査委員会創設メンバー。/ケイト・ユリス:詩人で活動家。ラトガーズ大学教諭。/ナン・D・ハンター:「アメリカ自由人権協会・レズビアンとゲイの権利プロジェクト」指導者。中絶権国連訴訟。/バーバラ・オデアー:性と文化に関心を寄せてきた文筆家・編集者。/アン・スニトウ:1969年以来のフェミニズム活動家。ニュースクール・フォー・ソーシャル・リサーチ、ユージン・ラング・カレッジで文学を教えている。/アビー・トールマー:反レズビアンの暴力、売春婦の権利にかかわり活動、執筆。/キャロル・S・ヴァンス:コロンビア大学の公衆衛生学校の人類学者。セクシュアリティ、ジェンダー、関連で執筆。FACT創設メンバー。/ポーラ・ウェブスター:コンサルタント。母と娘の関係を分析した「Bound By Love」ルーシー・ギルバートと共著。/エレン・ウィリス:「The Village Voice」副編集長。「The Village Voice」「Socila Text」フェミニズムのセックス論争に関して執筆。1982年バーナード会議「セクシュアリティのポリテイクスに向けて」企画メンバー。 我が国でも、ポルノは女性を抑圧する象徴だとして、遅れた大学フェミニストたちは、今でも反対している。アメリカでも同様だった。 悪名高い女性フェミニストが、ポルノ反対の行動を起こし、ポルノ撲滅の法律まで作ってしまった。 本書は、反ポルノを主張する怪しげなフェミニストにたいして、 まっとうなフェミニストが反論を試みたものである。
本書は下記の9人が、分担して執筆しており、 基本的には本サイトの主張と同じである。 つまりポルノ規制には反対であり、ポルノは表現の自由の一つとして、許容されるべきだという当然の主張である。 反ポルノ論者たちが、セックスを否定的にとらえるのに対して、 本書の筆者たちはセックスを肯定し、女性の性的欲望を肯定する。 第1章:抑圧か転換か−反ポルノグラフィ・ムーヴメントのポリティクス…アン・スニトウ 第2章:私たちのあいだで、私たちに敵対して…パット・カリフィア 第3章:年表ポルノ論争史−フェミニズムにおけるセクシュアリティ、メディア、暴力問題…ナン・D・ハンター 第4章:ポルノグラフィと快楽…ポーラ・ウェブスター 第5章:ポルノグラフィとフェミニストの想像力:ローリング・ストーンズにやられちゃった、でもどう感じてるか、よくわかんない…ケイト・エリス 第6章:セックスに関するいくつかの前提…バーバラ・オデアー/アビー・トールマー 第7章:フェミニズム、モラリズム、ポルノグラフィ…エレン・ウィリス 第8章:フェミニズムの名のもとでの検閲…リサ・ダガン 第9章:偽りの約束−フェミニスト反ポルノ立法…リサ・ダガン/ナン・D・ハンター/キャロル・S・ヴァンス 本書が反ポルノ陣営を完全に論破しているかは、いささか疑問がある。 フェミニストを自認する女性たちにとって、ポルノを全面的に肯定するのは難しい。 たしかに、男女の性的な高まりを描写したものにとどまらず、 暴力的な描写があったり女性を貶めたりするがあった。 そのため一時、ポルノは撲滅の対象だったことは事実である。 女性たちの社会的な進出と平行して、女性の意識は見られる存在から、見る存在へと変化してきた。 そこで、ポルノを楽しいセックスの表現として許容しても良い、とフェミニストたちも考え始めた。 ラファエラ・アンダーソンのようにAV女優が市民権を獲得し、 売春婦が売春する権利を求めて立ち上がった。 女性が経済的な力を付けてきたので、女性もセックスを楽しむようになった。 にもかかわらず、すべての性行為は男性による女性への支配の行使だ、 と信じるアンドレア・ドウォーキンらの主張が、保守派たちの注目を集めた。 そして、驚くべき法律が、怪しげな自称フェミニストと極めつきの保守派の連合によって、成立してしまった。 フェミニストの起草による初の反ポルノ法は、1983年、ミネアポリスで成立した。 地元の議員は、ポルノショップの地域規制条例が法廷で棄却されたことで、不満を高めていた。そして新たな地域規制条例を討議するた めに公聴会が催された。南部・中南部ミネアポリス地域ポルノ対策会議は、ミネソタ大学でポルノグラフィに関して講義していたアンド レア・ドウォーキンとキャサリン・マッキノンを証人として招いた。彼女たちは、たんにポルノを規制するのではなくて、完全に撲滅す る代替案を提案した。そして、ポルノグラフィを性差別の一形態として定義し、ポルノを有害として禁ずる市の公民権法の修正条項を成立させるべき、と示唆した。P193 本サイトでも、アンドレア・ドウォーキンの愚かさは、 彼女の著書「インターコース」の書評でも論じている。 また、ポルノが女性差別の象徴であるか否かは、「遡及的想像力」で考察しており、あらためて論述するまでもない。 本書を読んで感じるのは、アメリカのフェミニズムは自分に正直だ、ということである。 我が国の大学フェミニストが、自分の性的欲望を語らず、 高所からあたかも肉体がないかのように、<正しい意見>を吹聴するのとはずいぶんと違う。 自分の性的な体験を語っているし、自分の性的な欲望を肯定している。 感覚や感情を基盤にして、体験から論理を素直に紡ぎ出している。 正しい論理を吹聴するのではなく、肉体をとおして論理を生み出そうとする姿勢は信じて良いだろう。 アメリカでもフェミニストと自称する女性が、 ごりごりの保守派と共闘してしまったことは、女性運動にとって歴史的汚点だと見える。 しかし、我が国にあっても、同じような傾向を感じる。 少子化に向けた対策では、保守派と大学フェミニストが共闘しそうである。 保守派の家族を守れという姿勢と、 愛による男女の結びつきを信奉する大学フェミニストは、主張する基盤がまったく同じである。 対なる男女を前提とする点において、両者は同じ思考方法をとっている。 原状改善を求めるだけなら、フェミニズムの歴史的意義は、きわめて小さなものでしかない。 我が国の大学フェミニストたちは、男女差別の根本原因を考察しなかったので、 結局のところ現状の改善にとどまり、歴史的な展望を開けなかった。 そのため、不景気になれば簡単に後退するし、少子化に直面すると打ち出すべき論理がない。 現状改善のための政策論であれば、体制側のほうが力量は上である。 保守派が家族を守れという号令を発し、 大学フェミニストを巻き込んでいくのは、たやすいことである。 いまだにキャサリン・マッキノンやアンドレア・ドウォーキンの著作が、 取り上げられる我が国の大学フェミニズムは、まったく死に絶えたとしか言いようがない。 1986年に書かれた本書は、20年も遅れた我が国の大学フェミニストたちの動向を、 先取りして批判しているようだ。 (2003.09.26) 参考: 信田さよ子「脱常識の家族づくり」中公新書、2001 杉本鉞子「武士の娘」ちくま文庫、1994 ラファエラ・アンダーソン「愛ってめんどくさい」ソニー・マガジンズ、2002 まついなつき「愛はめんどくさい」メディアワークス、2001 岡田秀子「反結婚論」亜紀書房、1972 岸田秀「性的唯幻論序説」文春文庫、1999 フランチェスコ・アルベローニ「エロティシズム」中央公論 1991 ジョルジュ・バタイユ「エロスの涙」ちくま学芸文庫、2001 オリビア・セント クレア「 ジョアンナの愛し方」飛鳥新社、1992 石坂晴海「掟やぶりの結婚道 既婚者にも恋愛を!」講談社文庫、2002 梅田功「悪戦苦闘ED日記」宝島社新書、2001 山村不二夫「性技 実践講座」河出文庫、1999 謝国権「性生活の知恵」池田書店、1960 清水ちなみ&OL委員会編「史上最低 元カレ コンテスト」幻冬舎文庫、2002 プッシー珠実「男を楽しむ女の性交マニュアル」データハウス、2002 生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002 赤松啓介「夜這いの民俗学」明石書店、1984 生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002 福田和彦「閨の睦言」現代書林、1983 田中優子「張形−江戸をんなの性」河出書房新社、1999 佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1995 アンドレア・ドウォーキン「インターコース」青土社、1989 カミール・パーリア「セックス、アート、アメリカンカルチャー」河出書房新社、1995 シャノン・ベル「売春という思想」青弓社、2001 シャノン・ベル「セックスワーカーのカーニバル」第三書館、2000 アラン・コルバン「娼婦」藤原書店、1991 曽根ひろみ「娼婦と近世社会」吉川弘文館、2003 アレクサ・アルバート「公認売春宿」講談社、2002 バーン&ボニー・ブーロー「売春の社会史」筑摩書房、1991 編著:松永呉一「売る売らないはワタシが決める」ポット出版、2005 エレノア・ハーマン「王たちのセックス」KKベストセラーズ 2005 高橋 鐵「おとこごろし」河出文庫、1992 正保ひろみ「男の知らない女のセックス」河出文庫、2004 ロルフ・デーゲン「オルガスムスのウソ」文春文庫、2006 ロベール・ミュッシャンプレ「オルガスムの歴史」作品社、2006 菜摘ひかる「恋は肉色」光文社、2000 ヴィオレーヌ・ヴァノイエク「娼婦の歴史」原書房、1997 ジャン・スタンジエ「自慰」原書房、2001 ジュリー・ピークマン「庶民たちのセックス」KKベストセラーズ、2006 松園万亀雄「性の文脈」雄山閣、2003 ケイト・ミレット「性の政治学」ドメス出版、1985 謝国権「性生活の知恵」池田書店、1960 山村不二夫「性技−実践講座」河出文庫、1999 ディアドラ・N・マクロスキー「性転換」文春文庫、2001 赤川学「性への自由/性からの自由」青弓社、1996 佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1996 ウィルヘルム・ライヒ「性と文化の革命」勁草書房、1969 田中貴子「性愛の日本中世」ちくま学芸文庫 2004 ロビン・ベイカー「セックス・イン・ザ・フューチャー」紀伊國屋書店、2000 酒井あゆみ「セックス・エリート」幻冬舎、2005 大橋希「セックス・レスキュー」新潮文庫、2006 アンナ・アルテール、ベリーヌ・シェルシェーヴ「体位の文化史」作品社、2006 石川弘義、斉藤茂男、我妻洋「日本人の性」文芸春秋社、1984 高月靖「南極1号伝説」バジリコ、2008 石川武志「ヒジュラ」青弓社、1995 佐々木忠「プラトニック・アニマル」幻冬社、1999 生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002 村上弘義「真夜中の裏文化」文芸社、2008 赤松啓介「夜這いの民俗学」明石書店、1994 岩永文夫「フーゾク進化論」平凡社新書、2009 ビルギット・アダム「性病の世界史」草思社、2003 メイカ ルー「バイアグラ時代」作品社、2009 白倉敬彦「江戸の春画」洋泉社、2002 田中優子「張形−江戸をんなの性」河出書房新社、1999 パット・カリフィア他「ポルノと検閲」青弓社、2002
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