匠雅音の家族についてのブックレビュー      性技−実践講座|山村不二夫

性技−実践講座 お奨度:

著者:山村不二夫 (やまむら・ふじお)−−河出文庫、1999(1985) ¥620−

著者の略歴−1922年、京都の名門旧家に生まれる。有名私立大学法学部卒。地方の資産家の婿養子となり、以来、在野の実践的な性科学者として性の世界の追究に赴く。スワッピング歴30数年、″セックスメート″の名で知られる。日本性科学会認定のセックスカウンセラーの資格を持ち、電話による性の悩みの相談に気軽に応じている。

セックスメートのカウンセラーオフィス
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 「性生活の知恵」以来、セックスの手引き書は山のように出版された。
本書もその類書の1冊だが、男性は女性の快楽のために存在する、という立場に瞠目させられる。
筆者は、夫婦交際の世界では有名人で、一種のセックスカウンセラー役をつとめているという。
夫婦交際の月刊誌「ホームトーク」に連載されていたものを、まとめたのが本書である。

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 女性も膣に挿入されたペニスの抽送で膣壁を強く摩擦されることを最高に喜ぶ、それもペニスはデカクて硬いほど良い、時間は長いほど良い、ヌキサシは強く激しいほど良い、それで女性は強烈に何回も気がイクんだ−と誤って思い込んでしまって、奥さま方の性の喜びの真実である、「本当は私たちはこのようにして欲しいのです」という裏の声があることに気がつかないご主人方がほとんどです。ここに、男女の性の喜びの不一致の最大の原因があるように思われます。P12

という文章で始まる本書は、最初から最後まで男性がいかに女性の快楽に奉仕するか、という視点で貫かれている。
男性の快楽は女性に奉仕することであり、
男性が自分の性的な満足を追求することは否定されている。
その一貫した姿勢が潔い。

 本書を執筆したとき、筆者は77才である。
女性を喜ばせるために、高齢の彼が2時間に及ぶセックスをする。
様々なセックスが描かれているが、自分の射精はお預けで、
とにかく女性に奉仕奉仕である。
こうしたら女性が感じるというテクニックを、これでもかこれでもかとばかりに繰りだすのには脱帽である。

 本書を読んでいると、女性に奉仕する姿勢はいいが、女性を物のように扱っているようにも感じる。
確かに彼の指導で女性たちは喜びを入手しており、彼はこの世界では「先生」と呼ばれているらしい。
女性たちから感謝されているのだから、本書を批判する必要はないかもしれない。
ましてや性の世界は個人的なものだ。本人が良ければ、他人はとやかく言う術はない。
確かにそうなのだが、

 ペニスを膣へ突き入れて自分の気持ちがいいように抽送するだけ。これじゃ奥さまの膣を借りてマスターベーションしているみたいなものじゃないかP12

といって批判する自分中心の男性と、彼の奉仕姿勢は同じことの裏表に過ぎないようにも感じる。

 奉仕するためには、女性の身体を客観視する必要がある。
だから、彼の目はどうしても女性の身体をみる、つまり物としてみる姿勢はやむを得ないのかもしれない。
それはこうしたら喜ぶといった記述にならざるを得ず、男性側からの一方的な働きかけに終始する。

 本書には、男女が互いに働きかけながら、協同するといった姿勢はない。
あくまで男性の意志=観念が、女性の身体を操縦するのである。
ペニスで女性を操縦する発想に比べたらましかもしれないが、この姿勢は男性が主体、女性が客体の構造から抜けでていない。
ここで快楽にうちふるえる女性は、男性が文化で女性は自然を認めることになるのか。

 女性の快楽がどういったものか、私にはよく判らないので、結論めいたことは言わない。
女性が客体として扱われても、性的な快感は多いほうが良いのかも知れない。
ただ、アメリカの類書を読んでいると、セックスを男女の協同作業と考えているように感じる。
フェミニズムを通過した男女には、主体客体の関係はないとすれば、本書はやはり古いのだろう。
女性に奉仕という概念自体が、男性支配の変種に過ぎないのであろうか。
本書には、男性の観念性がよく表れている。

 セックスは生殖ではない。
本書は建前的なセックス観を軽々と超えているが、わが国のフェミニズムはセックスをどう考えているのだろうか。
わが国のフェミニズムは、セックスについて自ら語らないから、最後のところで信用できないのだ。
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参考:
岡田秀子「反結婚論」亜紀書房、1972
S・メルシオール=ボネ、A・トックヴィル「不倫の歴史 夢の幻想と現実のゆくえ」原書房、2001
顧蓉、葛金芳「宦官 中国四千年を操った異形の集団」徳間文庫、2000
フラン・P・ホスケン「女子割礼:因習に呪縛される女性の性と人権」明石書店、1993
エヴァ・C・クールズ「ファロスの王国 T・U 古代ギリシャの性の政治学」岩波書店、1989
田中優子「張形 江戸をんなの性」河出書房新社、1999
フランチェスコ・アルベローニ「エロティシズム」中央公論 1991
ジョルジュ・バタイユ「エロスの涙」ちくま学芸文庫、2001
オリビア・セント クレア「 ジョアンナの愛し方」飛鳥新社、1992
石坂晴海「掟やぶりの結婚道 既婚者にも恋愛を!」講談社文庫、2002
梅田功「悪戦苦闘ED日記」宝島社新書、2001
山村不二夫「性技 実践講座」河出文庫、1999
謝国権「性生活の知恵」池田書店、1960
清水ちなみ&OL委員会編「史上最低 元カレ コンテスト」幻冬舎文庫、2002
プッシー珠実「男を楽しむ女の性交マニュアル」データハウス、2002
生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002
赤松啓介「夜這いの民俗学」明石書店、1984
生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002
福田和彦「閨の睦言」現代書林、1983
田中優子「張形−江戸をんなの性」河出書房新社、1999
佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1995
アンドレア・ドウォーキン「インターコース」青土社、1989
カミール・パーリア「セックス、アート、アメリカンカルチャー」河出書房新社、1995
シャノン・ベル「売春という思想」青弓社、2001
シャノン・ベル「セックスワーカーのカーニバル」第三書館、2000
アラン・コルバン「娼婦」藤原書店、1991
曽根ひろみ「娼婦と近世社会」吉川弘文館、2003
アレクサ・アルバート「公認売春宿」講談社、2002
バーン&ボニー・ブーロー「売春の社会史」筑摩書房、1991
編著:松永呉一「売る売らないはワタシが決める」ポット出版、2005
エレノア・ハーマン「王たちのセックス」KKベストセラーズ 2005 
高橋 鐵「おとこごろし」河出文庫、1992
正保ひろみ「男の知らない女のセックス」河出文庫、2004
ロルフ・デーゲン「オルガスムスのウソ」文春文庫、2006
ロベール・ミュッシャンプレ「オルガスムの歴史」作品社、2006
菜摘ひかる「恋は肉色」光文社、2000
ヴィオレーヌ・ヴァノイエク「娼婦の歴史」原書房、1997
ジャン・スタンジエ「自慰」原書房、2001
ジュリー・ピークマン「庶民たちのセックス」 KKベストセラーズ、2006
松園万亀雄「性の文脈」雄山閣、2003
ケイト・ミレット「性の政治学」ドメス出版、1985
謝国権「性生活の知恵」池田書店、1960
山村不二夫「性技−実践講座」河出文庫、1999
ディアドラ・N・マクロスキー「性転換」文春文庫、2001
赤川学「性への自由/性からの自由」青弓社、1996
佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1996
ウィルヘルム・ライヒ「性と文化の革命」勁草書房、1969
田中貴子「性愛の日本中世」ちくま学芸文庫 2004
ロビン・ベイカー「セックス・イン・ザ・フューチャー」紀伊國屋書店、2000
酒井あゆみ「セックス・エリート」幻冬舎、2005  
大橋希「セックス・レスキュー」新潮文庫、2006
アンナ・アルテール、ベリーヌ・シェルシェーヴ「体位の文化史」作品社、2006
石川弘義、斉藤茂男、我妻洋「日本人の性」文芸春秋社、1984 
高月靖「南極1号伝説」バジリコ、2008
石川武志「ヒジュラ」青弓社、1995
佐々木忠「プラトニック・アニマル」幻冬社、1999
生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002
村上弘義「真夜中の裏文化」文芸社、2008 
赤松啓介「夜這いの民俗学」明石書店、1994
岩永文夫「フーゾク進化論」平凡社新書、2009
ビルギット・アダム「性病の世界史」草思社、2003
メイカ ルー「バイアグラ時代」作品社、2009
イヴ・エンスラー「ヴァギナ・モノローグ」白水社、2002
橋本秀雄「男でも女でもない性」青弓社、1998
エヴァ・C・クールズ「ファロスの王国」岩波書店、1989
岸田秀「性的唯幻論序説」文春文庫、1999
能町みね子「オカマだけどOLやってます」文春文庫、2009
島田佳奈「人のオトコを奪る方法」大和文庫、2007
工藤美代子「快楽(けらく)」中公文庫、2006

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