著者の略歴− 現在ならわが国でも、性に関する調査もたくさん行われている。 本書はキンゼイ・レポートにならって、社会学の調査屋さんといわれる学者が主になって、 1984年という早い時期に行われた、性に関する調査をまとめたものである。 調査というのは、仮説と質問項目のたてかたで、ほぼ結果が決まってしまう。
共同通信というマスコミがやったので、やや総花的である。 回答率が低いのが気になるが、2年半をかけただけあって、詳細なレポートになっている。 本書の調査は、所得水準が高く幸福な家庭生活をおくっていると思われる、中高年の管理職とその妻を対象にして行われた。 この人たちは、管理者会の歪みを一番強く受けている人でもある、と本調査は前提している。 そして、生活実態、性行為、価値観の3方向から、調査に望んだといっている。 それを反映して、本書は被調査者の生活像にも迫ろうとしているし、 被調査者の子供らの性生活にまで質問が及んでいる。 そして、中高年の管理職とその妻を一般の男性とその妻で比較している。 本書が行った調査から見えるのは、行動成長期の男性とその妻たちの性行動だが、それは男女性別役割をみごとに反映している。 今から見ると、現状は当時と変わっているのかどうか。 誰からも興味をもたれる行為でありながら、秘められた世界の出来事であるので、正確な状況は分からない。 また、こうした調査が有効かも疑問が残りはするが、 他に調べる手だてはないとすれば、それなりに意味を見いだし結果を読み解くべきだろう。 まず気がつくのは、男性からの働きかけが強く、女性は受け身的である。 性別による役割分担の浸透は、日常生活にとどまらず、性生活にまで及んでいる。 性生活を始めるきっかけを、主導権としてとらえ次の質問をしている。 質問「あなた方ご夫婦は、どちらからセックスを求めることが多いですか」への回答は、「いつもきまって相手から」「大体は相手からだが、あなたから求めることもある」「大体はあなたからだが、相手から求めることもある」「いつもきまってあなたから」の四つに分れる。 男性の約半数が「大体は自分が求めるが、妻から求めることもある」と答えている。次に多いのが「いつもきまって自分から」で、「妻から求める」という答は多くない。おもしろいことに、女性群の回答では「自分から求める」というのは更に少なく、「夫からだけ」求めるという答えが多くなっている。夫の方は、求めるのはいつも自分だけというわけではないといいたがっているのに、妻の方は、私は自分から求めるようなことはしない、いつも夫の方からですといいたがっているかのようである。P196 これは性交の主導権もさることながら、性交に対する各人の意識の表れと読むべきだろう。 つまり、セックスを楽しむことが、まだ肯定されていないように感じる。 男性も自分ばかりが要求するのは、悪いことをしているように感じるのだろう。 また、女性はセックスなんてはしたないことは、自分から望むわけじゃない、と考えているに違いない。 すでに高度成長もおわり、それなりの経済生活が入手できたはずだが、 性別役割分担が強固になった分だけ、性に関する意識も分担されて固定化したようだ。 本書でも言うとおり、性は性だけとりだして論じることはできず、 男女関係の反映であり日常生活の反映である。 だから、性を個人的な意識で捉えようとする視点が、すくいきれない物差しになってしまう。 セックスは快楽を求めるために行うのでもなく、生殖のために行うのではない。 セックスは関係性の確認であり、快楽や生殖はその結果に過ぎない。 とすれば上下関係のもとでは、上下関係的なセックスが行われ、横並び関係のもとでは横並び的なセックスが行われる。 私たちの質問に答えて下さった2、222人の男女の8剖以上が「性生活を重視する」と答えた。だが、「必ず前戯をする」人は全体の3割から4割にとどまるし、前戯にオラル・セックスをする人は、全体の3割ほどだ。同じ寝床に眠る夫婦は、全体の2割から3割。初めから裸になってセックスをする人は、わずか5%から13%どまり。普通の明るさの部屋で性交する人は全体の5%を割る。P244 この数字も理解に苦しむところである。 質問に答えた人は、性生活の公表に抵抗がなかったのだから、自分の性生活を肯定的に捉えているはずである。 2001年の現在、再度この調査をしたら、どのような結果がでるか興味がある。 同じ調査を10年に一度といった形でくり返し、データーを蓄積するべきである。 主婦が自立したという話は聞かないから、実際はどうか分からないが、 男性が主導権という回答は変わらないだろう。 大きく違うと思うのは、勃起不全の男性が多くなったことだと思う。 感想・ご意見などを掲示板にどうぞ 参考: 岡田秀子「反結婚論」亜紀書房、1972 S・メルシオール=ボネ、A・トックヴィル「不倫の歴史 夢の幻想と現実のゆくえ」原書房、2001 顧蓉、葛金芳「宦官 中国四千年を操った異形の集団」徳間文庫、2000 フラン・P・ホスケン「女子割礼:因習に呪縛される女性の性と人権」明石書店、1993 エヴァ・C・クールズ「ファロスの王国 T・U 古代ギリシャの性の政治学」岩波書店、1989 田中優子「張形 江戸をんなの性」河出書房新社、1999 フランチェスコ・アルベローニ「エロティシズム」中央公論 1991 ジョルジュ・バタイユ「エロスの涙」ちくま学芸文庫、2001 オリビア・セント クレア「 ジョアンナの愛し方」飛鳥新社、1992 石坂晴海「掟やぶりの結婚道 既婚者にも恋愛を!」講談社文庫、2002 梅田功「悪戦苦闘ED日記」宝島社新書、2001 山村不二夫「性技 実践講座」河出文庫、1999 謝国権「性生活の知恵」池田書店、1960 清水ちなみ&OL委員会編「史上最低 元カレ コンテスト」幻冬舎文庫、2002 プッシー珠実「男を楽しむ女の性交マニュアル」データハウス、2002 生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002 赤松啓介「夜這いの民俗学」明石書店、1984 生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002 福田和彦「閨の睦言」現代書林、1983 田中優子「張形−江戸をんなの性」河出書房新社、1999 佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1995 アンドレア・ドウォーキン「インターコース」青土社、1989 カミール・パーリア「セックス、アート、アメリカンカルチャー」河出書房新社、1995 シャノン・ベル「売春という思想」青弓社、2001 シャノン・ベル「セックスワーカーのカーニバル」第三書館、2000 アラン・コルバン「娼婦」藤原書店、1991 曽根ひろみ「娼婦と近世社会」吉川弘文館、2003 アレクサ・アルバート「公認売春宿」講談社、2002 バーン&ボニー・ブーロー「売春の社会史」筑摩書房、1991 編著:松永呉一「売る売らないはワタシが決める」ポット出版、2005 エレノア・ハーマン「王たちのセックス」KKベストセラーズ 2005 高橋 鐵「おとこごろし」河出文庫、1992 正保ひろみ「男の知らない女のセックス」河出文庫、2004 ロルフ・デーゲン「オルガスムスのウソ」文春文庫、2006 ロベール・ミュッシャンプレ「オルガスムの歴史」作品社、2006 菜摘ひかる「恋は肉色」光文社、2000 ヴィオレーヌ・ヴァノイエク「娼婦の歴史」原書房、1997 ジャン・スタンジエ「自慰」原書房、2001 ジュリー・ピークマン「庶民たちのセックス」 KKベストセラーズ、2006 松園万亀雄「性の文脈」雄山閣、2003 ケイト・ミレット「性の政治学」ドメス出版、1985 謝国権「性生活の知恵」池田書店、1960 山村不二夫「性技−実践講座」河出文庫、1999 ディアドラ・N・マクロスキー「性転換」文春文庫、2001 赤川学「性への自由/性からの自由」青弓社、1996 佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1996 ウィルヘルム・ライヒ「性と文化の革命」勁草書房、1969 田中貴子「性愛の日本中世」ちくま学芸文庫 2004 ロビン・ベイカー「セックス・イン・ザ・フューチャー」紀伊國屋書店、2000 酒井あゆみ「セックス・エリート」幻冬舎、2005 大橋希「セックス・レスキュー」新潮文庫、2006 アンナ・アルテール、ベリーヌ・シェルシェーヴ「体位の文化史」作品社、2006 石川弘義、斉藤茂男、我妻洋「日本人の性」文芸春秋社、1984 高月靖「南極1号伝説」バジリコ、2008 石川武志「ヒジュラ」青弓社、1995 佐々木忠「プラトニック・アニマル」幻冬社、1999 生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002 村上弘義「真夜中の裏文化」文芸社、2008 赤松啓介「夜這いの民俗学」明石書店、1994 岩永文夫「フーゾク進化論」平凡社新書、2009 ビルギット・アダム「性病の世界史」草思社、2003 メイカ ルー「バイアグラ時代」作品社、2009 イヴ・エンスラー「ヴァギナ・モノローグ」白水社、2002 橋本秀雄「男でも女でもない性」青弓社、1998 エヴァ・C・クールズ「ファロスの王国」岩波書店、1989 岸田秀「性的唯幻論序説」文春文庫、1999 能町みね子「オカマだけどOLやってます」文春文庫、2009 島田佳奈「人のオトコを奪る方法」大和文庫、2007 工藤美代子「快楽(けらく)」中公文庫、2006
|