匠雅音の家族についてのブックレビュー   セックス、アート、アメリカンカルチャー|カミール・パーリア

セックス、アート、アメリカンカルチャー お奨度:

著者:カミール・パーリア−−河出書房新社、1995 ¥3、689−

著者の略歴−カミール・パーリアは、古代エジプトから19世紀末までの芸術とデカダンスを扱った「性のペルソナ」河出書房新社、1998の筆者でもある。
 多くのフェミニストは、女性は抑圧されている、女性は被害者だ、
といって男性を攻撃するばかりである。
女性という自分が自立できないのは、男性支配社会が女性を抑圧しているからだと言う。
男性を非難するばかりで、自分の足で立とうとしない。
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 フェミニズムは女性であることにその根拠をおき、
女性であるがゆえの発言に異を唱えさせない。
少しでも女性を批判すれば、金切り声の攻撃がとどめもなく降り注ぐ。
そんななか、筆者はマドンナこそ真のフェミニストであり、ポルノも売春も妊娠中絶もすべてOKだという。

 フェミニズムは20世紀が生んだ最大の思想であることは間違いない。
偉大な思想であるフェミニズムだが、マルクス主義が辿ったと同じ道を辿っている。
フェミニストの致命的な欠陥は、決定的に芸術が判らないことだ。
男女が平等であり、女性が解放されるべきだというイデオロギーが優先し、
人間の欲望に目をふさぎ、美と官能を抑圧している。
だから、フェミニストたちは潤いを失っている。

 しかし、カミール・パーリアは違う。
彼女こそ、美なるものにそして官能に身を委ねることを至上のものとし、
生きる力そのものを女性の解放であると考える。
体制化し権威化したフェミニズムを批判してやまないために、
彼女は20年来冷や飯を食わされてきた。
今やっと陽の目を見た。私は彼女のような真のフェミニストの登場を待っていた。

 彼女は仕事の口がなく、つまづきも多かった。
孤独と貧困、1981年に書き上げた「性のペルソナ」がなかなか出版されない焦りと不安にさいなまれてきた。
それには共感する。しかし、明るさを失うことなく、次のように言う。

 現代のフェミニズムは、みずから歴史との絆を断ち、男を迫害者と決めつけ、女は性の 対象にされる犠牲者でしかないという幼稚な被害妄想をふりまわすことで破綻を招いた。女こそが支配的な性なのだ。−P26

 残念ながらわが国では、カミール・パーリアの知名度は低い。
彼女の主張に賛同するものは少ない。
そして、被害者意識や政治的なイデオロギーから解放されて、
自由に考えるフェミニストは皆無である。
それはわが国の思想状況が、マルクス主義でもそうだったように、
外来の思想が権威化し、現実の社会から理論を組み立てようとはしないからである。
 
 今やわが国には、大学にしかフェミニストはいない。
しかも大学フェニミストは、本当のフェニミストとは似て非なるものだ。
実際の社会ではフェミニストは嫌われている。
男性からではない。
男性はフェミニストの金切り声を敬して近づかないだけだが、女性たちはフェミニストの言動が、女性の立場を苦しめると考え始めている。
フェミニズムは偉大な思想でありながら、フェミニストは女性に嫌われ始めた。

 社会学に無知なゴードン(スザンヌ・ゴードン「男たちの夢に囚われて」の筆者)は、女の 思いつきそうなお気楽な「階層のない」社会や平等主義の労働環境などをバラ色に描いて いるが、そんなものをとりいれれば、どんな大社会でも機能がマヒしてしまうのがおちであ る。−P129

 フロイトを評価するところは、私とはいささか立場が違うが、
彼女のようにしなやかなフェミニストが、わが国で高く評価されることを心から願っている。
 
 女性の解放が女性原理に基づくとしたら、男性の解放は男性原理に基づくことになってしまう。
性別に拘れば、異性からは何の発言もできなくなってしまう。
女性の解放は性差の無化であり、男性の解放も性差の無化なのだ。

 社会は男女で構成されている以上、男性であることが決定されるのは女性を鏡としてであり、
女性であることが決定されるのは男性を鏡としてである。
性による原理から自由にならない限り、男女の理解は始まらない。
明るくつきあえるフェミニズムとして、本書は希有の存在である。

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参考:
岡田秀子「反結婚論」亜紀書房、1972
S・メルシオール=ボネ、A・トックヴィル「不倫の歴史 夢の幻想と現実のゆくえ」原書房、2001
顧蓉、葛金芳「宦官 中国四千年を操った異形の集団」徳間文庫、2000
フラン・P・ホスケン「女子割礼:因習に呪縛される女性の性と人権」明石書店、1993
エヴァ・C・クールズ「ファロスの王国 T・U 古代ギリシャの性の政治学」岩波書店、1989
田中優子「張形 江戸をんなの性」河出書房新社、1999
フランチェスコ・アルベローニ「エロティシズム」中央公論 1991
ジョルジュ・バタイユ「エロスの涙」ちくま学芸文庫、2001
オリビア・セント クレア「 ジョアンナの愛し方」飛鳥新社、1992
石坂晴海「掟やぶりの結婚道 既婚者にも恋愛を!」講談社文庫、2002
梅田功「悪戦苦闘ED日記」宝島社新書、2001
山村不二夫「性技 実践講座」河出文庫、1999
謝国権「性生活の知恵」池田書店、1960
清水ちなみ&OL委員会編「史上最低 元カレ コンテスト」幻冬舎文庫、2002
プッシー珠実「男を楽しむ女の性交マニュアル」データハウス、2002
生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002
赤松啓介「夜這いの民俗学」明石書店、1984
生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002
福田和彦「閨の睦言」現代書林、1983
田中優子「張形−江戸をんなの性」河出書房新社、1999
佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1995
アンドレア・ドウォーキン「インターコース」青土社、1989
カミール・パーリア「セックス、アート、アメリカンカルチャー」河出書房新社、1995
シャノン・ベル「売春という思想」青弓社、2001
シャノン・ベル「セックスワーカーのカーニバル」第三書館、2000
アラン・コルバン「娼婦」藤原書店、1991
曽根ひろみ「娼婦と近世社会」吉川弘文館、2003
アレクサ・アルバート「公認売春宿」講談社、2002
バーン&ボニー・ブーロー「売春の社会史」筑摩書房、1991
編著:松永呉一「売る売らないはワタシが決める」ポット出版、2005
エレノア・ハーマン「王たちのセックス」KKベストセラーズ 2005 
高橋 鐵「おとこごろし」河出文庫、1992
正保ひろみ「男の知らない女のセックス」河出文庫、2004
ロルフ・デーゲン「オルガスムスのウソ」文春文庫、2006
ロベール・ミュッシャンプレ「オルガスムの歴史」作品社、2006
菜摘ひかる「恋は肉色」光文社、2000
ヴィオレーヌ・ヴァノイエク「娼婦の歴史」原書房、1997
ジャン・スタンジエ「自慰」原書房、2001
ジュリー・ピークマン「庶民たちのセックス」 KKベストセラーズ、2006
松園万亀雄「性の文脈」雄山閣、2003
ケイト・ミレット「性の政治学」ドメス出版、1985
謝国権「性生活の知恵」池田書店、1960
山村不二夫「性技−実践講座」河出文庫、1999
ディアドラ・N・マクロスキー「性転換」文春文庫、2001
赤川学「性への自由/性からの自由」青弓社、1996
佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1996
ウィルヘルム・ライヒ「性と文化の革命」勁草書房、1969
田中貴子「性愛の日本中世」ちくま学芸文庫 2004
ロビン・ベイカー「セックス・イン・ザ・フューチャー」紀伊國屋書店、2000
酒井あゆみ「セックス・エリート」幻冬舎、2005  
大橋希「セックス・レスキュー」新潮文庫、2006
アンナ・アルテール、ベリーヌ・シェルシェーヴ「体位の文化史」作品社、2006
石川弘義、斉藤茂男、我妻洋「日本人の性」文芸春秋社、1984 
高月靖「南極1号伝説」バジリコ、2008
石川武志「ヒジュラ」青弓社、1995
佐々木忠「プラトニック・アニマル」幻冬社、1999
生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002
村上弘義「真夜中の裏文化」文芸社、2008 
赤松啓介「夜這いの民俗学」明石書店、1994
岩永文夫「フーゾク進化論」平凡社新書、2009
ビルギット・アダム「性病の世界史」草思社、2003
メイカ ルー「バイアグラ時代」作品社、2009
イヴ・エンスラー「ヴァギナ・モノローグ」白水社、2002
橋本秀雄「男でも女でもない性」青弓社、1998
エヴァ・C・クールズ「ファロスの王国」岩波書店、1989
岸田秀「性的唯幻論序説」文春文庫、1999
能町みね子「オカマだけどOLやってます」文春文庫、2009
島田佳奈「人のオトコを奪る方法」大和文庫、2007
工藤美代子「快楽(けらく)」中公文庫、2006

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