匠雅音の家族についてのブックレビュー     離婚バイブル|中村久瑠美

離婚バイブル お奨度:

著者:中村久瑠美(なかむら くるみ)  文春文庫 2008年(2005年)¥657−

 著者の略歴−東京都生まれ。弁護士。東京大学卒業。東京大学大学院修士課程修了。一子を抱える主婦だったが、離婚を機に子育てをしながら司法試験を目指して合格。アメリカ留学を経て独立。1981年に中村久瑠美法律事務所を開設、現在に至る。元東京家裁調停委員、経済産業省中小企業政策審議会委員、厚生労働省援護審査会委員。現在、成践大学法科大学院講師。主な著書に『家族の法律』(暮しの手帖社)、『相続と遺言の知恵』『55歳からの離婚計画』(いずれも講談社)、『いきいき離婚あんしん講座』(日本実業出版社)がある。
 単家族というと、離婚のすすめのように思われがちだが、けっしてそうではない。
むしろ、結婚を超越したいと考えてきたので、世に離婚関係の本はたくさんあるが、本サイトでは離婚関係の本は取り上げなかった。
しかし、離婚もまた現実だとすれば、1冊くらいは離婚関係の本も取り上げようか、と思った次第である。
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 筆者の経歴を見ればわかるが、筆者の体験をもって、ちょっと普通の人と同じと考えるのは難しい。
決断が大切だという。
筆者は決断した人と、しない人にわける。
プラス1は、消極的に離婚を決断した人で、プラス2は、積極的に離婚を決断した人とわける。
そして、決断しない人も、未決断をマイナス1、積極的な不決断をマイナス2という。

 筆者は弁護士として、数千件の離婚事件を扱ってきた。
豊富な体験にもとづき、プラス2〜マイナス2まで、さまざまな状況にあわせて、離婚への対応を処方していく。
プラス2〜マイナス2の人は、離婚にいたる理由も違う。

 決断度プラス2の人の離婚理由は、「性格の不一致(性の不一致を含む)」「夫の不貞」「自由になりたい」「夫の暴力」という順だそうである。
夫の暴力が、積極派の第一理由かと思うと、そうではない。
考えてみれば、当然のことだ。

 夫から暴力をふるわれて、離婚を考えるのは、きわめて受け身的である。
暴力さえなければ、離婚しないのだから、消極的決断になるのも理解できる。
積極的に離婚を決断するには、配偶者の存在が自分の生き方を阻害すると感じているからだ。
おそらく結婚にいたる道中も、受け身的だったのだろう。

 マイナス1〜2の人たちは、離婚を打算で考えている。
慰謝料をたくさん取ろう、と考えているようだ。
その理由もまた理解できる。
現代社会は、女性の就労には大きな困難がともなう。
とりわけ子連れや高齢者であれば、ほとんど禁止的状況だろう。

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 筆者は弁護士だから、離婚の法律相談となるのは当然だが、それは民法を読んでもらうとしよう。
離婚事由に、5年という別居期間を入れようという動きに対して、各界から反対があったという。

 別居期間を新たな離婚原因に加えようという民法改正試案は、時代の流れにも合って、国民の実生活にも役立つのではという発想で公表されたのだが、各界に与えた衝撃は相当に大きく、反対論者の抵抗が日に日に強まった。
 専業主婦や各地の女性団体が、まず反対声明を出した。「これでは夫は不倫のやり放題」「不貞の相手である女性も、五年待ちさえすれば他人の夫が手に入るわけ?」「ちょっとそれはないでしょう…、妻の座はそうやすやすとは渡せません」などという女性たちの叫びが各地で上がったのである。P126


 筆者は5年という別居期間は、婚姻破綻の認定するのには短すぎることはないと言っている。
こうした動きがあったのは、1994年だった。
その後の裁判所の動きを見ると、有責主義から破綻主義へと転換したのは周知であろう。

 法律が改正されなくても、運用で判例変更がなされ、実質的に別居期間が有効になった。
しかし、別居期間が法定されているわけではない。そのため、裁判官によってばらつきがあり、運不運がつきまとう。
法定するのが良いのか悪いのかは、一概に言えないだろう。

 夫の暴力も、離婚は子供を不幸にするとばかりに、妻が堪え忍ぶと、むしろ子供に悪影響がでると言っている。

 (中学生になった娘が)スーパーで万引きをしたという。警察官は「家庭の事情を少しお話しください。お父さんとお母さんの伸がうまくいってないのではないですか。娘さんはお父さんがお母さんを殴る姿に耐えられなくなって、家を出たそうです」と言う。
 他人から夫の暴力を指摘されたのは初めてだった。娘の目にそんな姿が焼きついていると聞かされ、それが原因で娘が非行に走ろうとしているとも指摘され、ユリエさんは愕然とした。同時に、目からウロコが落ちるような、そんな衝撃も受けた。P184


 夫の暴力だけではない。夫婦仲が悪いと、人間を信じることができなくなる。
ましてや暴力をふるう人間はもちろん、暴力を受け入れてしまう人間にも、子供は批判的な目を持ち続ける。
暴力に耐える姿は、決して美しくない。
むしろ、人間不信をうえつけるだけだ。

 両親による子育てこそが素晴らしい、という神話がいかに広くはびこっているか。
そうではなく、子供を愛する人間による子育てが素晴らしいのだ。
核家族という結婚制度は、ほんとうに人間の行動を規制して、自由を失わせている。

 男女が愛し合う姿は、気持ちの良いものだが、それを結婚制度にはめこむ必要はない。
男女ともに働き続ける社会こそ、男女がほんとうに愛し合える社会である。
単家族こそ招来すべき家族の形である。    (2009.2.15)
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参考:
湯沢雍彦「明治の結婚 明治の離婚」角川選書、2005
越智道雄「孤立化する家族」時事通信社、1998
高木侃「三くだり半と縁切寺」講談社現代新書、1992年
岡田秀子「反結婚論」亜紀書房、1972
大河原宏二「家族のように暮らしたい」太田出版、2002
J・F・グブリアム、J・A・ホルスタイン「家族とは何か」新曜社、1997
磯野誠一、磯野富士子「家族制度:淳風美俗を中心として」岩波新書、1958
エドワード・ショーター「近代家族の形成」昭和堂、1987
S・クーンツ「家族に何が起きているか」筑摩書房、2003
賀茂美則「家族革命前夜」集英社、2003
信田さよ子「脱常識の家族づくり」中公新書、2001
匠雅音「核家族から単家族へ」丸善、1997
黒沢隆「個室群住居:崩壊する近代家族と建築的課題」住まいの図書館出版局、1997
E・S・モース「日本人の住まい」八坂書房、1970
エドワード・ショーター「近代家族の形成」昭和堂、1987
ジョージ・P・マードック「社会構造 核家族の社会人類学」新泉社、2001
S・ボネ、A・トックヴィル「不倫の歴史 夢の幻想と現実のゆくえ」原書房、2001
石坂晴海「掟やぶりの結婚道」講談社文庫、2002
マーサ・A・ファインマン「家族、積みすぎた方舟」学陽書房、2003
上野千鶴子「家父長制と資本制」岩波書店、1990
斎藤学「家族の闇をさぐる」小学館、2001
斉藤学「「家族」はこわい」新潮文庫、1997
島村八重子、寺田和代「家族と住まない家」春秋社、2004
伊藤淑子「家族の幻影」大正大学出版会、2004
山田昌弘「家族のリストラクチュアリング」新曜社、1999
斉藤環「家族の痕跡」筑摩書房、2006
宮内美沙子「看護婦は家族の代わりになれない」角川文庫、2000
ヘレン・E・フィッシャー「結婚の起源」どうぶつ社、1983
瀬川清子「婚姻覚書」講談社、2006
香山リカ「結婚がこわい」講談社、2005
山田昌弘「新平等社会」文藝春秋、2006
速水由紀子「家族卒業」朝日文庫、2003
ジュディス・レヴァイン「青少年に有害」河出書房新社、2004
川村邦光「性家族の誕生」ちくま学芸文庫、2004
信田さよ子「脱常識の家族づくり」中公新書ラクレ、2001
菊地正憲「なぜ、結婚できないのか」すばる舎、2005
原田純「ねじれた家 帰りたくない家」講談社、2003
A・柏木利美「日本とアメリカ愛をめぐる逆さの常識」中公文庫、1998
ベティ・フリーダン「ビヨンド ジェンダー」青木書店、2003
塩倉 裕「引きこもる若者たち」朝日文庫、2002
サビーヌ・メルシオール=ボネ「不倫の歴史」原書房、2001
棚沢直子&草野いづみ「フランスには、なぜ恋愛スキャンダルがないのか」角川ソフィア文庫、1999
岩村暢子「普通の家族がいちばん怖い」新潮社、2007
下田治美「ぼくんち熱血母主家庭」講談社文庫、1993
高木侃「三くだり半と縁切寺」講談社現代新書、1992
加藤秀一「<恋愛結婚>は何をもたらしたか」ちくま新書、2004
バターソン林屋晶子「レポート国際結婚」光文社文庫、2001
中村久瑠美「離婚バイブル」文春文庫、2005
佐藤文明「戸籍がつくる差別」現代書館、1984
松原惇子「ひとり家族」文春文庫、1993
森永卓郎「<非婚>のすすめ」講談社現代新書、1997
林秀彦「非婚のすすめ」日本実業出版、1997
伊田広行「シングル単位の社会論」世界思想社、1998
斎藤学「「夫婦」という幻想」祥伝社新書、2009

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