匠雅音の家族についてのブックレビュー    <非婚>のすすめ|森永卓郎

<非婚>のすすめ お奨度:

著者:森永卓郎(もりなが たくろう) 講談社現代新書 1997年 ¥640−

著者の略歴−1957年生まれ、東京大学経済学部卒業。日本専売公社、経済企画庁なとを経て、現在金融系シンクタンク主任研究員。専門は計量経済学と労働経済学。著書に「悪女と紳士の経済学」(講談社)、「大解析−2001年日本は変わる!」(実業之日本社)などがある。
 非婚をシングルと捉え、シングル・ライフを実践せよとの本書は、ずいぶんと時代を先取っていた。
本書がいう非婚は、本サイトの「単家族」とほとんど同じである。
核家族から単家族へ」と同じ1997年に上梓されたのも、何かの因縁を感じる。
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「非婚」のすすめ (講談社現代新書)

 単家族が家族のあり方の分析からたどり着いたのに対して、本書は現状の家族の分析から、シングルにたどり着いている。
やはり結論は同じになるのだ、と不思議な納得感である。
筆者は標準世帯というのは、政府による国策として作られたという。

 戦前は産めよ増やせよだった。
しかも、戦前の家族政策は、経済的な裏付けだけではなく、マインド・コントロールもなされていた。
そして、形こそ違え、戦前から続くマインド・コントロールの結果、男女の対と子供2人の家族ができあがったのだという。

 標準世帯という核家族は、企業にとっても都合が良かった。
家族を維持するための給料体系を導入して、家族ごと企業に引き込めば、従業員は安定して仕事に打ち込む。
そのためには、たくさんの子供がいると、家族手当が高額になるから、子供の少ない標準世帯を指向した。
配偶者が専業主婦であれば、一家をあげて企業に献身してくれる。

 本サイトは終生の核家族というが、筆者は同じことを終身結婚制という。
つまり、一度結婚したら、離婚しないのだ。
若いうちこそ再婚も可能だが、中高年者は再婚できずに、しかも、女性の再婚はきわめて低い。
これは、終身雇用制とよく似ている。
結婚制度が、職業と連動しているのは当然である。

 見合結婚が主流のうちは、終身結婚制が完全に確立したとは言えない。富裕層では妾を持つ事例もかなりあったし、「浮気は男の甲斐性」などという思想も根強くあった。それが、「愛」を前提にした結婚のシステムの登場によって、時間軸の忠誠心と空間軸の忠誠心を要求する終身結婚制が確立したのである。実際、見合結婚の比率を恋愛結婚の比率が上回ったのは、高度成長期のことであった。
 また、終身雇用制と終身結婚制の確立は、単に時期が一致しているというだけでなく、構造的に結びついている。P97


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 筆者は、高度成長期以降の家族は、結婚と恋愛、それにセックスの三位一体主義が決定したという。
恋愛から結婚にいたり、結婚したからセックスができるのが、戦後の家族理念だった。
今では恋愛と結婚が分断され、セックスと結婚も分離しつつある。
筆者はセックスに恋愛が必要と、いう規範は強固に残っているという。
しかし、これも分離しつつあるのではないだろうか。

 現在の税金や年金制度が、じつはシングルに有利なのだといって、筆者はたくさんの統計資料をならべる。
掲げられている数字だけを見れば、シングルが有利で、専業主婦は優遇されていないようにみえる。
しかし、こうした数字は、前提条件を操作することにより、簡単に反対の証明ができることが多い。
たとえば、主婦の家事労働に課税する話があるが、子供の手伝いに課税できないのと同様に、これは現実的には不可能だろう。

 筆者はシングルが社会を変えるとは言っていない。
しかし、消費者重視へと企業を変えるだろし、所得格差が拡大すると言っている。
しかも、男性が選択されるようになるだろうと言っている。
こうした筆者の予見は、おそらく正しいだろう。

 専業主婦になって社会と隔絶されるのは嫌だし、共働きで子供を育てるのは負担が大きい。シングルのまま子供を育てるのは、社会の目が気になる。そして、なによりも、この男の子供なら生みたいと思うような魅力的な男性は自分の配偶者にはなってくれない。受忍できる選択肢がなかなかみつからないまま、ずるずると出産が遅れてしまうというのが、子供を生まない多くの女性が陥った現実なのである。
 しかし、女性が自立して、自らの経済力で子育てが可能になり、しかもシングル・ペアレントに対する社会的な偏見がなくなれば、状況は一変するかもしれない。女性が、好きなタイプの男性の子供を自由に生むことが可能になるからである。(中略)
 そうなると、男女交際のマーケットでは、特定の男性の「ひとり勝ち」の状況が、今よりもずっと極端に現れるだろう。女性は一度に一人のパートナーとしか子作りができないが、男性の方はいくらでも可能だからである。P175


 シングル社会は、護送船団方式ではなく、競争社会でもある。
今までは男性同士が職場で競争をしたが、今後は、女性もライバルである。
もちろん、恋人だって魅力がなければ、結婚制度は守ってくれないから、たちまち捨てられることになる。
競争は男性に限ったことではない。
もてる男性がひとり勝ちというが、じつは女性も同じになるのではないか。

 非婚のシングル社会は、良いこともあると筆者は言う。
5点ばかり上げているが、そのなかでも財政と雇用の好転は、特筆すべきだろう。
とにかく担税者が2倍になるのだから、財政が好転するのは当然だし、女性を戦力化するためには、雇用が流動化するだろうから、それは女性に限らず全員に恩恵となるだろう。
  (2009.6.20)
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参考:
湯沢雍彦「明治の結婚 明治の離婚」角川選書、2005
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高木侃「三くだり半と縁切寺」講談社現代新書、1992年
岡田秀子「反結婚論」亜紀書房、1972
大河原宏二「家族のように暮らしたい」太田出版、2002
J・F・グブリアム、J・A・ホルスタイン「家族とは何か」新曜社、1997
磯野誠一、磯野富士子「家族制度:淳風美俗を中心として」岩波新書、1958
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賀茂美則「家族革命前夜」集英社、2003
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黒沢隆「個室群住居:崩壊する近代家族と建築的課題」住まいの図書館出版局、1997
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エドワード・ショーター「近代家族の形成」昭和堂、1987
ジョージ・P・マードック「社会構造 核家族の社会人類学」新泉社、2001
S・ボネ、A・トックヴィル「不倫の歴史 夢の幻想と現実のゆくえ」原書房、2001
石坂晴海「掟やぶりの結婚道」講談社文庫、2002
マーサ・A・ファインマン「家族、積みすぎた方舟」学陽書房、2003
上野千鶴子「家父長制と資本制」岩波書店、1990
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斉藤学「「家族」はこわい」新潮文庫、1997
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斉藤環「家族の痕跡」筑摩書房、2006
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ヘレン・E・フィッシャー「結婚の起源」どうぶつ社、1983
瀬川清子「婚姻覚書」講談社、2006
香山リカ「結婚がこわい」講談社、2005
山田昌弘「新平等社会」文藝春秋、2006
速水由紀子「家族卒業」朝日文庫、2003
ジュディス・レヴァイン「青少年に有害」河出書房新社、2004
川村邦光「性家族の誕生」ちくま学芸文庫、2004
信田さよ子「脱常識の家族づくり」中公新書ラクレ、2001
菊地正憲「なぜ、結婚できないのか」すばる舎、2005
原田純「ねじれた家 帰りたくない家」講談社、2003
A・柏木利美「日本とアメリカ愛をめぐる逆さの常識」中公文庫、1998
ベティ・フリーダン「ビヨンド ジェンダー」青木書店、2003
塩倉 裕「引きこもる若者たち」朝日文庫、2002
サビーヌ・メルシオール=ボネ「不倫の歴史」原書房、2001
棚沢直子&草野いづみ「フランスには、なぜ恋愛スキャンダルがないのか」角川ソフィア文庫、1999
岩村暢子「普通の家族がいちばん怖い」新潮社、2007
下田治美「ぼくんち熱血母主家庭」講談社文庫、1993
高木侃「三くだり半と縁切寺」講談社現代新書、1992
加藤秀一「<恋愛結婚>は何をもたらしたか」ちくま新書、2004
バターソン林屋晶子「レポート国際結婚」光文社文庫、2001
中村久瑠美「離婚バイブル」文春文庫、2005
佐藤文明「戸籍がつくる差別」現代書館、1984
松原惇子「ひとり家族」文春文庫、1993
森永卓郎「<非婚>のすすめ」講談社現代新書、1997
林秀彦「非婚のすすめ」日本実業出版、1997
伊田広行「シングル単位の社会論」世界思想社、1998
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