匠雅音の家族についてのブックレビュー    セルフビルド|矢津田義則&渡邊義孝

セルフ ビルド 家をつくる自由 お奨度:

著者:矢津田義則(やつだ よしのり)渡邊義孝(わたなべ よしたか)
            2007年   旅行人  ¥2200−

 著者の略歴−矢津田義則:陶芸家。1961年、福岡県生まれ。1984年、大学卒業後、東京で図書館員として勤務。1985年から西チベット、インド、ネパール、シッキム、タイ、メキシコ、グアテマラ、インドネシアなどを旅し、1988年から北関東の里山に移住。築窯し、陶芸家として独立。東京を中心に個展活動をしている。いつの間にかセルフピルド始める。
 渡邊義孝:一級建築士。1966年、京都府生まれ。県立船橋高卒。型枠大工、保線工などを経て、鈴木喜一建築計画工房に入所.住宅設計、民家再生、文化財調査等を担当。2004年風組・渡邊設計室を設立。NPO東京を描く市民の会理事。ユーラシア各国を巡り、建築や生活に関するエッセイも発表。著書に「風をたべた日々」(日経BP社)。

 独力で家を建てた、もしくは、ほぼ独力で家を建てた例が、30軒である。
じつに見事な家ばかりで、プロの設計者としては困ったものだ。
それぞれに独創的で、魅力的な家が並んでいる。
これが素人の作品かと思うと頭が下がる。

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 目次を見ると、4章に分かれている。

第1章 セルフビルドの極みへ
第2章 自由自在のセルフビルド
第3章 セルフビルドは脱建築へ
第4章 ハーフビルドという選択


写真とはいえ、いずれも目を見張らされる。カラー写真をしげしげと見てしまう。

 造園家や陶芸家が多いが、それでも建築の素人だ。
彼等が更地から自力で家を建てる。
こんな話はめったに目にするものではないが、それが30軒も集まると壮観である。
屋根に植裁した家、電柱を利用した家、枕木を使った家、ドームの家、個人輸入した家など、もう自由自在である。

 本書は見るだけでも楽しく、どの家も個性を放っている。
30軒もあるから、どれを取り上げて良いか迷ってしまう。
それほどに、どれも素晴らしい。
実際に見れば、細部の納まりは悪く、素人細工になっていたとしても、そんな細かいことは吹っ飛んでしまう。

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 本書に登場する人たちは、最初から田舎に住んでいたわけではない。
住む場所から、探し始めた人がほとんどである。
もちろん都市部は地価が高いからだろうが、地方に土地を求めているのは、地価の問題だけではない。
彼等の多くが、自然志向なのだ。
田舎の空気をもとめて、わざわざ不便なところへと移り住んだ。
自然志向の延長上で、セルフビルドへと辿りつく、そんな感じの人が多い。

 完全な在来工法は、やはり素人には難しいようだ。
2バイ4なら何とかなるようだが、それでも基礎工事が難しいらしい。
木工事と基礎工事をくらべると、基礎工事のほうが易しそうだが、基礎は見えなくなってしまうので、想像しにくいのだろう。
だから、イメージがわきにくく難しいのだろう。
 
 それと設備工事が難しいらしい。
これは理解できる。
とくに電気においては外線の引き込み、水道においては本管の取り出しは、いずれも資格が必要であり、素人では施工できない。
 
このドームハウスは木彫家・朝倉二美さんの自宅兼工房だ。
 直径11メートルのドームハウスの中は、想像以上に広く、そして天井高も相当なものだ。実際このドームの内部も一階、二階、そしてロフトと三階分のスペースが確保されている。ドームもこれほどの大きさになると壁面の曲線も緩やかで、既成の家具も配置しやすいし、間仕切りをして独立した部屋をつくることも可能だ。(中略)
 アカマツ林だったこの土地を手に入れて、最初の仕事はその伐採だった。さらに、ここで伐採した原木に加え、実家の裏に生えていたマツも伐採し、それらを製材所に持ち込み、ドームのフレームに必要なサイズに挽いてもらった。
 こうして手に入れた材木を基本資材に家づくりは始まった。といってもいきなり、この大きなドームをつくつたわけではない。
 一冊の本を頼りに、計算し、模型をつくってみる。それを実物大に寸法を合わせて工作を開始するのだ。まず予行練習も兼ねて、一つの三角形が丁度、軽自動車のワンボックスカーの荷台に載るサイズでつくってみた。こちらのドームの部材は間柱材と合板である。3寸5分の間柱材を縦半分に切ったものでフレームをつくり、5・5ミリ厚の合板でつくったパネルを張った。これらの部材を実家のビニールハウスの中でつくり、現場に運んで組み立てた。そうしてパネル工法でできた29畳ほどのドームハウスを基地にして、大きなドームの制作が始まったのだ。P139

 本書を明快にしているのは、著者たちのスタンスも貢献している。
40歳代の2人の筆者は、住宅建築を良く知っている。
しかも、町で見かける住宅への偏見もなく、自由な目で建物を見ており、すがすがしい。
近来になく面白い建築の本だった。   (2008.7.15)
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参考:
ヘンリー・D・ソロー「森の生活」JICC出版局、1981
野村雅一「身ぶりとしぐさの人類学」中公新書、1996
永井荷風「墨東綺譚」新潮文庫、1993
服部真澄「骨董市で家を買う」中公文庫、2001
エドワード・S・モース「日本人の住まい」八坂書房、2000
高見澤たか子「「終の住みか」のつくり方」集英社文庫、2008
矢津田義則、渡邊義孝「セルフ ビルド」旅行人、2007
黒沢隆「個室群住居」住まいの図書館出版局、1997
増田小夜「芸者」平凡社 1957
福岡賢正「隠された風景」南方新社、2005
イリヤ・プリゴジン「確実性の終焉」みすず書房、1997
エドワード・T・ホール「かくれた次元」みすず書房、1970
オットー・マイヤー「時計じかけのヨーロッパ」平凡社、1997
ロバート・レヴィーン「あなたはどれだけ待てますか」草思社、2002
増川宏一「碁打ち・将棋指しの誕生」平凡社、1996
宮本常一「庶民の発見」講談社学術文庫、1987
青木英夫「下着の文化史」雄山閣出版、2000
瀬川清子「食生活の歴史」講談社、2001
鈴木了司「寄生虫博士の中国トイレ旅行記」集英社文庫、1999
李家正文「住まいと厠」鹿島出版会、1983
ニコル・ゴンティエ「中世都市と暴力」白水社、1999
武田勝蔵「風呂と湯の話」塙書店、1967
ペッカ・ヒマネン「リナックスの革命」河出書房新社、2001
R・L・パーク「私たちはなぜ科学にだまされるのか」主婦の友社、2001
平山洋介「住宅政策のどこが問題か」光文社新書、2009
松井修三「「いい家」が欲しい」三省堂書店(創英社)
匠雅音「家考」学文社
バーナード・ルドルフスキー「さあ横になって食べよう」鹿島出版会、1985
黒沢隆「個室群住居」住まいの図書館出版局、1997
S・ミルグラム「服従の心理」河出書房新社、1980
李家正文「住まいと厠」鹿島出版会、1983
エドワード・T・ホール「かくれた次元」みすず書房、1970

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