匠雅音の家族についてのブックレビュー    コーエン兄弟の世界−ビッグ・リボウスキ|ウィリアム・プレストン・ロバートソン

コーエン兄弟の世界
ビッグ・リボウスキ
お奨め度:

著者:ウィリアム・プレストン・ロバートソン
ソニー・マガジンズ、1998年 ¥2、000−

著者の略歴−ジャーナリストで脚本家。アイオワ・ライターズ・ワークショップで学び、コーエン兄弟との親交が深く、とくにイーサンとは彼がプリンストン大学に在学中からの知り合いである。長年にわたり、コーエン兄弟の映画製作術を間近で見てきている。ケンタッキー州レキシントン在住
 コーエン兄弟といえば、ジョエル・コーエンとイーサン・コーエンの2人組の映画監督である。
彼等は、妙な映画を撮るので知られている。
しかし、その奇妙さがなかなかにおもしろい。
その彼等に関して、近くにいる筆者が、
「ビッグ・リボウスキー」の完成を機会に書き上げたのが本書である。
コーエン兄弟の作品は、2001年6月現在のところ次の7本である。
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ブラッド シンプルザ・スリラー」1984
「赤ちゃん泥棒」1987
「ミラーズ・クロッシング」1990
「バートン・フィンク」1991
「未来は今」1994
ファーゴ」1996
ビッグ リボウスキー」1998
これらの作品には、同じモチーフがくり返し表れている。

  1. わめき、遠吠えするデブ、2.怒鳴りちらす暴君、
  3.ゲロ、4.暴力、5.夢、6.突飛な髪型P26


の6つが主なモチーフだが、
これだけ読むとおどろおどろしい映画と感じるかもしれない。
しかし、彼等の映画には、何とはないユーモアがあって、
決して残酷でもないし、冷酷でもない。
もちろん、おどろおどろしくもない。
むしろ、ほのぼのとした暖かさを感じさえする。

 彼等の映画は、2つに分類される。
「ブラッド・シンプル」「未来は今」「ファーゴ」などは、特別に妙な感じがしない。
普通に見て楽しいし、「未来は今」と「ファーゴ」は良くできた映画である。

 しかし、「赤ちゃん泥棒」は何となく変な感じのする映画で、
「ビッグ・リボウスキ」もその系列に属するだろう。
いったい何が言いたいのか、よく判らないままに映画が進んでいき、
判らないままに終わるのである。
それでも、「ビッグ・リボウスキ」は結構笑える映画だから、
この兄弟の頭の中はいったいどうなっているのだろう、と思わずにはいられない。

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 ストーリーボードは映画の意図する映像を描き、ショットごとにパネル化したものだ。意図するショットをどうフレーム取りするか、必要なら、どんなキャメラの動きが通用されるかを示し、一般的に、ひとつのシーンを作り上げるショットの流れなどを示す。見かけはコミック・アートと同じだが、ストーリーボードはフィルムメーカーがそれぞれの映画の展望を伝える手段なのだ。ストーリーボードにより、製作費を重視するプロデューサー的な人や、装置を集めるプロダクション・クルー、そして、おそらく一番重要なこととして、フィルムメーカー自身に意図が明確に伝わるのである。P52

 わが国の映画製作では、脚本もきちんと完成しないまま撮影に入ったりすることが多い。
ストーリーボードを描くなんていうことは、少ないかもしれない。
しかし、ヒッチコックや黒沢明は、ストーリーボードを使うので有名だった。
そして、コーエン兄弟も、ショットを1つ残らずストーリーボードに描く。
やはり、コンテやストーリーボードはきちんと書いたほうが、
意図が他人によく伝わるし、何よりも自分の整理になる。

 カメラ・ポジションの設定にかんして、撮影監督のロジャーは語る。

 「大部分の監督は、朝、俳優と一緒に撮影現場に行き、リハーサルしてから、キャメラ・ポジションを決める」ロジャーの詰では、実際にはキャメラ・ポジションを決めるのをすべて撮影監督に任せる監督もいるという。「そういう監督は、場面はこうだと言うだけだ。まあ、それでもいいが。それで、私は隅に立って、その場面を書き留めて、撮影しなくてはならないんだ」とロジャー。「ジョエルとイーサンと仕事をする際には、そんなことはしない。基本的にはキャメラ・ポジションは決められているからね。ストーリーボードでもうそれが出来上がっている」P73

 映画は完成したもの勝負であり、製作過程は問われない。
それは当然である。
しかし、映画製作は個人的な作業でない以上、誰にでも判りやすくしたほうが良いだろう。
現場で台詞を変えるのも、あまり芳しいことではない。

 本書は、コーエン兄弟の映画作りの秘密が、余すところなく述べられており、コーエン・ファンは充分に堪能できるだろう。
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参考:
ソースティン・ヴェブレン「有閑階級の理論」筑摩学芸文庫、1998
高尾慶子「イギリス人はおかしい」文春文庫、2001
オルテガ「大衆の反逆」白水社、1975
E・フロム「自由からの逃走」創元新社、1951
ロバート・スクラー「アメリカ映画の文化史 上、下」講談社学術文庫、1995
ポーリン・ケイル「映画辛口案内 私の批評に手加減はない」晶文社、1990
長坂寿久「映画で読むアメリカ」朝日文庫、1995
池波正太郎「味と映画の歳時記」新潮文庫、1986
佐藤忠男 「小津安二郎の芸術(完本)」朝日文庫、2000
伊藤淑子「家族の幻影」大正大学出版会、2004
篠山紀信+中平卓馬「決闘写真論」朝日文庫、1995
ウィリアム・P・ロバートソン「コーエン兄弟の世界」ソニー・マガジンズ、1998
ビートたけし「仁義なき映画論」文春文庫、1991
伴田良輔ほか多数「地獄のハリウッド」洋泉社、1995
瀬川昌久「ジャズで踊って」サイマル出版会、1983
宮台真司「絶望 断念 福音 映画」(株)メディアファクトリー、2004
荒木経惟「天才アラーキー写真の方法」集英社新書、2001
奥山篤信「超・映画評」扶桑社、2008
田嶋陽子「フィルムの中の女」新水社、1991
柳沢保正「へそまがり写真術」ちくま新書、2001
パトリシア・ボズワース「炎のごとく」文芸春秋、1990
仙頭武則「ムービーウォーズ」日経ビジネス人文庫、2000 
小沢昭一「私のための芸能野史」ちくま文庫、2004
小沢昭一「私は河原乞食・考」岩波書店、1969
赤木昭夫「ハリウッドはなぜ強いか」ちくま新書、2003
金井美恵子、金井久美子「楽しみと日々」平凡社、2007
町山智浩「<映画の見方>がわかる本」洋泉社、2002
藤原帰一「映画のなかのアメリカ」朝日新聞社、2006
バーナード・ルドルフスキー「さあ横になって食べよう:忘れられた生活様式」鹿島出版会、1985
瀬川清子「食生活の歴史」講談社学術文庫、2001
西川恵「エリゼ宮の食卓 その饗宴と美食外交」新潮文庫、2001
菊池勇夫「飢饉 飢えと食の日本史」集英社新書、2000
アンソニー・ボーデン「キッチン・コンフィデンシャル」新潮社、2001



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