著者の略歴− 映画館で見る映画をおもての部分だとすれば、本書は映画が作られる内幕つまり裏面史である。
ディズニーやチャプリンが善人だと思っている人、グレース・ケリーが 清純派だと思っている人にはアメリカ映画は絶対にわからない! と表紙に書いてある。 映画の内容とつくられ方はほとんど関係なく、映画は虚構の世界に遊ぶものである。 映画作家が色情狂であっても、清純映画をつくることはあるし、殺人者が世界平和の映画を作ってもいっこうにかまわない。 虚実が無関係であることは、映画が表現であるかぎり、当然のことである。 むしろ、清純派の人間には清純映画を作ることは、できにくいといってもいい。 表現の位相と、現実生活の位相は、ほとんど無関係なのである。 それが判っていないから、本書のように、いい人がいい映画を作ると考えがちである。 スキャンダルはスキャンダルとして楽しめばよく、スキャンダルが映画の質を左右することはない。 実生活が映画を決めるのではなく、話は反対である。 あんな自堕落な生活をしている人が、あんなに素敵な映画を撮るということに驚き、感動するのだ。 むしろ、表現者にとってスキャンダルは名誉でさえある。 そして、我々観客は、裏話を知れば知るほど、その映画がますます好きになっていくのである。 スキャンダルは荒唐無稽であればあるほどおもしろい。 ということで、安心して本書を読んでみよう。目次を掲げる。 1.「セレブリティ・スルース」の快楽 −デミ・ムーアのヘア・ヌード公開 伴田良輔 2.1,2,3,4,5,6,7…いい女優はみんな天国へ行く −ナクリー・ウッド、ヴィヴィアン・リー、グレース・ケリー、ジーン・セバーグ ほか7人のセックス・シンボル、その性と死 柳下毅一郎 3.神経衰弱ぎりぎりの役者たち −マイケル・ダグラス、ショーン・ヤング、デミ、ムーア、ドリュー・バルモア ほかハリウッドの懲りない面々のセックス、ドラッグ&バイオレンス ファビュラス・バーカー・ボーイズ(ガース柳下&ウェイン町山) 4.JFKと23人の女優たち −マドンナ、ダリル・ハンナ、シャーリー・マクレーン、ラナ・ターナ ほかハリウッドはケネディ一族のハーレムだった 林晃 5.『市民ケーン』の孫娘、パティ・ハーストは今どこに? −ゲリラになった令嬢パトリシアと、いかにして生き残ったのか 浜野保樹 6.『ハリウッド大通り』からシユワルツエネッガーまで −ケネディ一族の野望の道具としての八リウッド70年史 浜野保樹 7.ディズニーが東京大空襲をけしかけた! −ディズ二―はナチのシンパ。そのアニメのテーマは世界征服だ! 浜野保樹 8.誰がマイケル・サーンを殺したか? −彼がハリウッドを激怒させた怪作「マイラ」は、どれだけスコかったのか みのわあつお 9.ロリータに手を出すな! −チャプリン、ポランスキー、ウディ・アレンのロリコン・スキャンダル 杉田充生 10.ソフィスティケーティツド・ケーリIの「汚名」 −ケーリー・グラントはホモのケチ野郎だったって!? 越智道雄 11.プールつき大邸宅の惨劇:ハリウッド二世殺人事件 −父の偉大さに押しつぶされたマーロン・フランドの長男 越智道雄 12.ベルーシは二度死ぬ −ボブ・ウッドワードの「ワイヤード」はスキャンクルになりそこねた 大久保賢一 13.殺したいほど愛してる!悪夢のスター・ストーカー −妄想をふくらませ、有名人に忍び寄る狂ったファンの恐怖 清水俊雄 14.極道、ハリウッドにまかりとおる −ジョージ・ラフト、バクジー、そしてシナトラ。映画とギャングの深い閑係 大内稔 15.シネマの決死圏:映画という名の戦場の犠牲者たち −「トワイライト・ゾーン」「ベン・ハー」「スナッフ」「グレート・ハンティング」の 隠された死、捏造された死 江戸木純 16.デブ君の受難ハリウッド最初の殺人(?)事件の真相 −ファッティ・アーバックルは、本当に少女を殺したのか? ジョン・マー 17.瀕死のMGMに群がったハイエナども −非情な「乗っ取り屋」にアラン・ラツドの息子は立ち向かった! 越智道雄 18.砂漠のプリンスはブルック・シールズがお好き −「ブレンダ・スター」はアラブの王子様が作った、偉大なる個人映画だった 越智道雄 19.「サイコ」とデュシャンをつなぐもの −50年代アメリカを切り裂いた2人のアーチスト 滝本誠 本書には、それ以外にも実録・映画になった猟奇犯罪カタログと称して、18本の映画が論じられている。 そのなかにはかの名作「ボニー&クライド」も含まれている。 映画が実話をもとに作られることはしばしばあり、 「ボニー&クライド」も1930年にあった事件をもとにして製作された。 もちろん、実話をもとにしたから名作ができるかというと、それは保証の限りではない。 「ボニー&クライド」事件をもとにした映画は、他にもたくさん作られていることが、その証明である。
参考: ロバート・スクラー「アメリカ映画の文化史 上、下」講談社学術文庫、1995 ポーリン・ケイル「映画辛口案内 私の批評に手加減はない」晶文社、1990 長坂寿久「映画で読むアメリカ」朝日文庫、1995 池波正太郎「味と映画の歳時記」新潮文庫、1986 佐藤忠男 「小津安二郎の芸術(完本)」朝日文庫、2000 伊藤淑子「家族の幻影」大正大学出版会、2004 篠山紀信+中平卓馬「決闘写真論」朝日文庫、1995 ウィリアム・P・ロバートソン「コーエン兄弟の世界」ソニー・マガジンズ、1998 ビートたけし「仁義なき映画論」文春文庫、1991 伴田良輔ほか多数「地獄のハリウッド」洋泉社、1995 瀬川昌久「ジャズで踊って」サイマル出版会、1983 宮台真司「絶望 断念 福音 映画」(株)メディアファクトリー、2004 荒木経惟「天才アラーキー写真の方法」集英社新書、2001 奥山篤信「超・映画評」扶桑社、2008 田嶋陽子「フィルムの中の女」新水社、1991 柳沢保正「へそまがり写真術」ちくま新書、2001 パトリシア・ボズワース「炎のごとく」文芸春秋、1990 仙頭武則「ムービーウォーズ」日経ビジネス人文庫、2000 小沢昭一「私のための芸能野史」ちくま文庫、2004 小沢昭一「私は河原乞食・考」岩波書店、1969 赤木昭夫「ハリウッドはなぜ強いか」ちくま新書、2003 金井美恵子、金井久美子「楽しみと日々」平凡社、2007 町山智浩「<映画の見方>がわかる本」洋泉社、2002 藤原帰一「映画のなかのアメリカ」朝日新聞社、2006 バーナード・ルドルフスキー「さあ横になって食べよう:忘れられた生活様式」鹿島出版会、1985 瀬川清子「食生活の歴史」講談社学術文庫、2001 西川恵「エリゼ宮の食卓 その饗宴と美食外交」新潮文庫、2001 菊池勇夫「飢饉 飢えと食の日本史」集英社新書、2000 アンソニー・ボーデン「キッチン・コンフィデンシャル」新潮社、2001 ソースティン・ヴェブレン「有閑階級の理論」筑摩学芸文庫、1998 高尾慶子「イギリス人はおかしい」文春文庫、2001 オルテガ「大衆の反逆」白水社、1975 E・フロム「自由からの逃走」創元新社、1951 桜井哲夫「近代の意味:制度としての学校・工場」日本放送協会、1984
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