匠雅音の家族についてのブックレビュー    地獄のハリウッド−SEXと殺人とスキャンダルの映画史|伴田良輔

地獄のハリウッド
SEXと殺人とスキャンダルの映画史
お奨め度:

著者:伴田良輔ほか17人−洋泉社、1995年 (絶版)

著者の略歴−
 映画館で見る映画をおもての部分だとすれば、本書は映画が作られる内幕つまり裏面史である。
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地獄のハリウッド

 ディズニーやチャプリンが善人だと思っている人、グレース・ケリーが 清純派だと思っている人にはアメリカ映画は絶対にわからない!

 と表紙に書いてある。
映画の内容とつくられ方はほとんど関係なく、映画は虚構の世界に遊ぶものである。
映画作家が色情狂であっても、清純映画をつくることはあるし、殺人者が世界平和の映画を作ってもいっこうにかまわない。
 
 虚実が無関係であることは、映画が表現であるかぎり、当然のことである。
むしろ、清純派の人間には清純映画を作ることは、できにくいといってもいい。
表現の位相と、現実生活の位相は、ほとんど無関係なのである。
それが判っていないから、本書のように、いい人がいい映画を作ると考えがちである。

 スキャンダルはスキャンダルとして楽しめばよく、スキャンダルが映画の質を左右することはない。
実生活が映画を決めるのではなく、話は反対である。
あんな自堕落な生活をしている人が、あんなに素敵な映画を撮るということに驚き、感動するのだ。
むしろ、表現者にとってスキャンダルは名誉でさえある。
そして、我々観客は、裏話を知れば知るほど、その映画がますます好きになっていくのである。
スキャンダルは荒唐無稽であればあるほどおもしろい。
ということで、安心して本書を読んでみよう。目次を掲げる。

1.「セレブリティ・スルース」の快楽
   −デミ・ムーアのヘア・ヌード公開   伴田良輔
2.1,2,3,4,5,6,7…いい女優はみんな天国へ行く
   −ナクリー・ウッド、ヴィヴィアン・リー、グレース・ケリー、ジーン・セバーグ
    ほか7人のセックス・シンボル、その性と死  柳下毅一郎

3.神経衰弱ぎりぎりの役者たち
   −マイケル・ダグラス、ショーン・ヤング、デミ、ムーア、ドリュー・バルモア
    ほかハリウッドの懲りない面々のセックス、ドラッグ&バイオレンス
    ファビュラス・バーカー・ボーイズ(ガース柳下&ウェイン町山)

4.JFKと23人の女優たち
   −マドンナ、ダリル・ハンナ、シャーリー・マクレーン、ラナ・ターナ
    ほかハリウッドはケネディ一族のハーレムだった  林晃

5.『市民ケーン』の孫娘、パティ・ハーストは今どこに?
   −ゲリラになった令嬢パトリシアと、いかにして生き残ったのか  浜野保樹
6.『ハリウッド大通り』からシユワルツエネッガーまで
   −ケネディ一族の野望の道具としての八リウッド70年史  浜野保樹
7.ディズニーが東京大空襲をけしかけた!
   −ディズ二―はナチのシンパ。そのアニメのテーマは世界征服だ!  浜野保樹
8.誰がマイケル・サーンを殺したか?
   −彼がハリウッドを激怒させた怪作「マイラ」は、どれだけスコかったのか  みのわあつお
9.ロリータに手を出すな!
   −チャプリン、ポランスキー、ウディ・アレンのロリコン・スキャンダル  杉田充生
10.ソフィスティケーティツド・ケーリIの「汚名」
   −ケーリー・グラントはホモのケチ野郎だったって!?  越智道雄
11.プールつき大邸宅の惨劇:ハリウッド二世殺人事件
   −父の偉大さに押しつぶされたマーロン・フランドの長男  越智道雄
12.ベルーシは二度死ぬ
   −ボブ・ウッドワードの「ワイヤード」はスキャンクルになりそこねた  大久保賢一
13.殺したいほど愛してる!悪夢のスター・ストーカー
   −妄想をふくらませ、有名人に忍び寄る狂ったファンの恐怖  清水俊雄
14.極道、ハリウッドにまかりとおる
   −ジョージ・ラフト、バクジー、そしてシナトラ。映画とギャングの深い閑係   大内稔
15.シネマの決死圏:映画という名の戦場の犠牲者たち
   −「トワイライト・ゾーン」「ベン・ハー」「スナッフ」「グレート・ハンティング」の
    隠された死、捏造された死   江戸木純

16.デブ君の受難ハリウッド最初の殺人(?)事件の真相
   −ファッティ・アーバックルは、本当に少女を殺したのか?   ジョン・マー
17.瀕死のMGMに群がったハイエナども
   −非情な「乗っ取り屋」にアラン・ラツドの息子は立ち向かった!   越智道雄
18.砂漠のプリンスはブルック・シールズがお好き
   −「ブレンダ・スター」はアラブの王子様が作った、偉大なる個人映画だった  越智道雄
19.「サイコ」とデュシャンをつなぐもの
   −50年代アメリカを切り裂いた2人のアーチスト  滝本誠
 
 本書には、それ以外にも実録・映画になった猟奇犯罪カタログと称して、18本の映画が論じられている。

そのなかにはかの名作「ボニー&クライド」も含まれている。
映画が実話をもとに作られることはしばしばあり、
「ボニー&クライド」も1930年にあった事件をもとにして製作された。
もちろん、実話をもとにしたから名作ができるかというと、それは保証の限りではない。
「ボニー&クライド」事件をもとにした映画は、他にもたくさん作られていることが、その証明である。
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参考:
ロバート・スクラー「アメリカ映画の文化史 上、下」講談社学術文庫、1995
ポーリン・ケイル「映画辛口案内 私の批評に手加減はない」晶文社、1990
長坂寿久「映画で読むアメリカ」朝日文庫、1995
池波正太郎「味と映画の歳時記」新潮文庫、1986
佐藤忠男 「小津安二郎の芸術(完本)」朝日文庫、2000
伊藤淑子「家族の幻影」大正大学出版会、2004
篠山紀信+中平卓馬「決闘写真論」朝日文庫、1995
ウィリアム・P・ロバートソン「コーエン兄弟の世界」ソニー・マガジンズ、1998
ビートたけし「仁義なき映画論」文春文庫、1991
伴田良輔ほか多数「地獄のハリウッド」洋泉社、1995
瀬川昌久「ジャズで踊って」サイマル出版会、1983
宮台真司「絶望 断念 福音 映画」(株)メディアファクトリー、2004
荒木経惟「天才アラーキー写真の方法」集英社新書、2001
奥山篤信「超・映画評」扶桑社、2008
田嶋陽子「フィルムの中の女」新水社、1991
柳沢保正「へそまがり写真術」ちくま新書、2001
パトリシア・ボズワース「炎のごとく」文芸春秋、1990
仙頭武則「ムービーウォーズ」日経ビジネス人文庫、2000 
小沢昭一「私のための芸能野史」ちくま文庫、2004
小沢昭一「私は河原乞食・考」岩波書店、1969
赤木昭夫「ハリウッドはなぜ強いか」ちくま新書、2003
金井美恵子、金井久美子「楽しみと日々」平凡社、2007
町山智浩「<映画の見方>がわかる本」洋泉社、2002
藤原帰一「映画のなかのアメリカ」朝日新聞社、2006
バーナード・ルドルフスキー「さあ横になって食べよう:忘れられた生活様式」鹿島出版会、1985
瀬川清子「食生活の歴史」講談社学術文庫、2001
西川恵「エリゼ宮の食卓 その饗宴と美食外交」新潮文庫、2001
菊池勇夫「飢饉 飢えと食の日本史」集英社新書、2000
アンソニー・ボーデン「キッチン・コンフィデンシャル」新潮社、2001

ソースティン・ヴェブレン「有閑階級の理論」筑摩学芸文庫、1998
高尾慶子「イギリス人はおかしい」文春文庫、2001
オルテガ「大衆の反逆」白水社、1975
E・フロム「自由からの逃走」創元新社、1951
桜井哲夫「近代の意味:制度としての学校・工場」日本放送協会、1984


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