著者の略歴−1941年岡山生まれ、静岡県育ち。1964年津田塾大学学芸学部英文科卒、69年同大学院博士課程(英文字専攻)修了後、イギリスのケンブリッジ大学、ロンドン大学で訪問研究員。「現代イギリスの女性作家」「読みの軌跡」、共著に「女を装う」「花婿学校」などがある。現在、テレビ・講演で大活躍中。 田嶋陽子といえば、フェニミスト学者というより、テレビ・タレントだろう。 しかも、ちょっとピント外れな発言をするオバサンというイメージが強い。 そのため、悪い先入観を持って本書を読んだ。 しかし、映画の見方はしっかりしており、彼女を見なおした。
テレビでは本人とは違うイメージが先行する。 一時は有名になったが、もはや彼女の名前は、どこからも聞こえてこない。 テレビで有名になることは、良いことなのだろうか。 本書は、「映画にみる女性の魅力と抑圧状況」という学習会での話をもとに、加筆したものらしい。次の10本の映画に関する評論である。 二人の男のはさまに落ちた女「赤い靴」 二人の男のオモチヤにされた女「突然炎のことく」 彼らは廃馬を撃つ「べテイ・ブルー」 母を告発する「父の娘」「秋のソナタ」 母に食われた娘「女優フランシス」 専業主婦の終焉宣言「愛と追憶の日々」 現代版『白雪姫』「エミリーの未来」 レズピアン版『人形の家』「リアンナ」 「女らしさ」の神話からの脱皮「存在の耐えられない軽さ」 自己欺瞞からの再生「私の中のもう一人の私」 *タイトル前の文は、筆者のコメント 1948年製作の「赤い靴」があるが、「 突然炎のことく」は1962年製作だし、多くは同時代の映画である。 1989年製作の「私の中のもう一人の私」までを、1989年の秋に論じている。 選んだ映画にちょっと偏りを感じはするが、ほぼ同時代の映画だといっても良いだろう。 そういう意味では、公平で真摯である。 筆者も本書のなかで何度も言っているように、その時代に生きる人間は、男女ともに時代の価値観に支配される。 大衆芸術である映画は、より一層社会迎合的になりやすい。 だから「赤い靴」が、男性支配がもっとも強いのも、また当然だろう。 筆者は人間の自立に、経済的な充足が不可欠だと、何度も言っている。 まったく、そのとおりである。 そして、恋愛が、経済的自立から女性たちの目をそらすものだ、とも言っている。 これもまったくそのとおりである。
恋愛とは、もともと男性が始めたものだが、いまでは女性の専売特許のようになった。 女性が恋愛好きなのは、女性に職業がないままで男女平等が説かれた時代では、平等を感じられたのは恋愛だったからだ、と筆者は言う。 だから、職業をもつ男性には、恋愛は自己表現の一つにすぎない。 しかし、女性には、恋愛はたった一つの自己表現だから、すぐに「生きるか死ぬか」になってしまう、と筆者はいう。 男女の色恋は永遠だろうが、恋愛結婚は近代のものだ。 恋愛から始まって、結婚を終点とする騒動は、男女の性別役割分担の露払いである。 恋愛は恋愛でしかなかったものを、恋愛結婚へと変質させたのは、近代の核家族である。 筆者は、なかなか鋭い視点を提出している。 男女関係では養う・養われるという前提があるので、義務・責任という概念が生じてきて、弱い立場のものを守るためには関係が長続きすることが重要だったわけですが、その前提がなくなると、当然、関係の持ち方も変わってきます。今日出会って、明日別れたっていいわけです。(中略) 女同士の関係に限らず、養う・養われるという前提のない自立した人 間同士の関係なら、永続性はもはや重要な問題にはならないし、自分の感情に率直になって、いろいろな人間関係を作ることが可能になります。P202 という筆者の発言には、まったく異論がない。 しかし、筆者の発言は、ここまでである。 上記の発言からは、諸悪の根元は、終生の一夫一婦制であり核家族制度である、と続きそうであるが、家族論へと進む気配はない。 恋愛を悪し様に言うなら、女性の職業へと展開すべきだった。 しかし、1991年に上梓されたことを考えれば、男性を攻撃するだけではなく、女性の経済的な自立を考えただけでも、良しとすべきだろう。 「ヒロインはなぜ殺されるのか」というサブタイトルが付いているが、女性が殺される映画を選んだに過ぎないように感じる。 1967年には「俺たちに明日はない」が撮られているし、69年には「イージー ライダー」や「明日に向かって撃て」が撮られている。 ここではヒーローも殺されている。 1979年には「クレーマー・クレーマー」が撮られているし、論ずべき映画は他にもあるように思う。 なぜ上記の10本を選んだのか、と筆者に聞きたい。 選択の根拠を示さないと、男性社会攻撃のために、筆者に都合の良い映画を集めたと言われかねない。 それを別言すれば、映画を良く見ていると思う。 星を献上する。 (2008.11.03)
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