匠雅音の家族についてのブックレビュー     女の由来−もう一つの人類進化論|エレイン・モーガン

女の由来  もう一つの人類進化論 お奨度:

著者:エレイン・モーガン−−どうぶつ社、1997 ¥2、500−

著者の略歴−1920年イギリス生まれ。オックスフォード大学で英文学を学び、脚本家として活躍する一方、人類進化に関する多くの本を著している。主な著書に『人は海辺で進化した』 どうぶつ社、1998 「子宮の中のエイリアン」どうぶつ社、1998。「The Scars of Evolution」「The Descent of the Child」「The Aquatic Ape Hypothesis」
 人類は、直立歩行、道具の使用、言葉の獲得をもって、他の生物と区別される。
その人類は、何時どうやって生まれたのだろうか。
定説は、アフリカの熱帯雨林からサバンナへと降りて、2本足で立ち上がり道具を手にして狩りを始めた、という。
狩人発達説は、男性中心の見方ではないかと、本書は定説に反旗を翻す。
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 聖書によれば、神はまず男を創り、おまけで女を創った。
しかし、種の起源によれば、雌雄が別々に生まれることは考えられない。
科学的といわれる男性たちは、なぜ人類はジャングルで生まれ、狩人として発達してきたと信じたがるのか。
フェミニズムの主張に従えば、肉体的な屈強さは問題にならないというのに。

 父殺しがあって、なぜ母殺しがないのか、私もそう考えたから、男性中心の狩人説に疑問が生まれるのは当然である。
アフリカが人類の郷里だとしても、いきなり大型動物との抗争に遭遇すると考えるより、植物や貝・昆虫の幼虫などを食べるほうが自然だ、と私も思う。
事実今でも、人間のカロリーの70%は、植物性の食物から得ている。

本書は、人類は地上から水辺へと生活の場を移し、水に潜って貝をとり、小石を使って殻を割った、つまり海辺で進化してきたのだ、と言う。

 1. 男によってつくられた神話
 2. 変身
 3. 海辺にて
 4. オルガスム
 5. 愛
 6. 言葉
 7. Uターン
 8. 狩人
 9. 女性と政治
10. 女性と子供
11. 男との未来について

と展開される本書は、きわめて説得的である。
男性が狩りに行っている間、女性が浮気をしないように1夫1婦制になったとか、女性の大きな乳房は男性への性的魅力を増すためだ、といった説明はどうも嘘臭い。
人間はとりわけ体力に優れたわけでもない。

 初期の人間が、知能に優れていたわけでもないにもかかわらず、獰猛な動物をとるのは無理だろう。
男性の私でもそう思う。
種族保存から考えれば、なぜ子供のほうから考えないのかと思うし、個体維持には1夫1婦制でなくとも困ることはない。
やはり狩人神話は男性が創った、と言われても仕方ない。

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 本書は、「水生類人猿説」=アクア説をとる。
アフリカで生まれた人類の先祖は、灼熱の嵐に追われて水辺に近づき、水に入ることによって直立歩行を覚えた。
水の中では体毛が不要になった。
もちろん赤ん坊は、誰に教えられなくても泳げる。
むしろ幼児に成長すると、泳げなくなるのだ。
このアクア説は、人間の誕生を説明するには好都合である。
特別女性に有利だとも思えないが、どうしたわけか男性たちは耳を貸さないのである。

 本書の筆者によって、アクア説は生みだされたのではない。
1960年にアクア説を最初に唱えたのは、イギリスの男性海洋学者アリスター・ハーディである。
しかし、当時は大した話題にもならなかったので、筆者のアンテナにはかからなかった。
それが16年後になって、ジャーナリストである筆者の手によって、再び陽の目を見たのである。

 アクア説の詳しいことは本書を読んで欲しいが、地上生活をしていた4足動物が、水に入ることによって浮力の助けもあって、2足歩行になった。
体毛が落ちるなど、現在の人間に近い生き物になり、再び地上に戻ることによって人間は完成された、という論理の展開は、推理としてだけでも充分に魅力的である。
 アクア説にたてば、

 彼女(=女性のこと)にとって重大な分岐点になったのは、男女の役割分担が明確になり、核家族が確立された狩猟採集時代である。P283

ということになる。
もちろん、農耕社会への移行は、女性にはとても過酷な変化だった。
人間を考えるとき、一対の男女が家族を作るとか、成人男女の関係から考え始める傾向がある。
しかし、子供を中心に社会を見たら、ずいぶんと違ったものになるだろう。
子供の成長に適しているように、社会は作られているとしたら、核家族なんていう話はまったく雲散霧消してしまう。
本書は様々に考える契機を与えてくれる。
憎しみは抗争を生むだけであるから、男性を敵視することを止め、女性は次の点を目標とすべきだという。

      1. 女性自身の価値を自覚する
      2. 経済力な自立をめざす
      3. 望む以上の子供を作らないP332

いずれも納得できる。アクア説はいまだ定説とはなっていないが、検討されて然るべき説だろう。
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参考:
下田治美「ぼくんち熱血母主家庭 痛快子育て記」講談社文庫、1993
イヴォンヌ・クニビレール、カトリーヌ・フーケ「母親の社会史」筑摩書房、1994
江藤淳「成熟と喪失:母の崩壊」河出書房、1967
増田小夜「芸者」平凡社 1957
岩下尚史「芸者論」文春文庫、2006
スアド「生きながら火に焼かれて」(株)ソニー・マガジンズ、2004
田中美津「いのちの女たちへ」現代書館、2001
末包房子「専業主婦が消える」同友館、1994
梅棹忠夫「女と文明」中央公論社、1988
ラファエラ・アンダーソン「愛ってめんどくさい」ソニー・マガジンズ、2002
まついなつき「愛はめんどくさい」メディアワークス、2001
J・S・ミル「女性の解放」岩波文庫、1957
ベティ・フリーダン「新しい女性の創造」大和書房、1965
クロンハウゼン夫妻「完全なる女性」河出書房、1966
松下竜一「風成(かざなし)の女たち」現代思想社、1984
モリー・マーティン「素敵なヘルメット職域を広げたアメリカ女性たち」現代書館、1992
小野清美「アンネナプキンの社会史」宝島文庫、2000(宝島社、1992)
熊沢誠「女性労働と企業社会」岩波新書、2000
ジェーン・バートレット「「産まない」時代の女たち」とびら社、2004
楠木ぽとす「産んではいけない!」新潮文庫、2005
山下悦子「女を幸せにしない「男女共同参画社会」 洋泉社、2006
小関智弘「おんなたちの町工場」ちくま文庫、2001
エイレン・モーガン「女の由来」どうぶつ社、1997
シンシア・S・スミス「女は結婚すべきではない」中公文庫、2000
シェア・ハイト「女はなぜ出世できないか」東洋経済新報社、2001
中村うさぎ「女という病」新潮社、2005
内田 樹「女は何を欲望するか?」角川ONEテーマ21新書 2008
三砂ちづる「オニババ化する女たち」光文社、2004
大塚英志「「彼女たち」の連合赤軍」角川文庫、2001
鹿野政直「現代日本女性史」有斐閣、2004
片野真佐子「皇后の近代」講談社、2003
ジャネット・エンジェル「コールガール」筑摩書房、2006
ダナ・ハラウエイ「サイボーグ・フェミニズム」水声社 2001
山崎朋子「サンダカン八番娼館」筑摩書房、1972
水田珠枝「女性解放思想史」筑摩書房、1979
フラン・P・ホスケン「女子割礼」明石書店、1993
細井和喜蔵「女工哀史」岩波文庫、1980
サラ・ブラッファー・フルディ「女性は進化しなかったか」思索社、1982
赤松良子「新版 女性の権利」岩波書店、2005
マリリン・ウォーリング「新フェミニスト経済学」東洋経済新報社、1994
ジョーン・W・スコット「ジェンダーと歴史学」平凡社、1992
清水ちなみ&OL委員会編「史上最低 元カレ コンテスト」幻冬舎文庫、2002
モリー・マーティン「素敵なヘルメット」現代書館、1992
R・J・スミス、E・R・ウイスウェル「須恵村の女たち」お茶の水書房、1987
末包房子「専業主婦が消える」同友館、1994
鹿嶋敬「男女摩擦」岩波書店、2000
荻野美穂「中絶論争とアメリカ社会」岩波書店、2001
山口みずか「独身女性の性交哲学」二見書房、2007
田嶋雅巳「炭坑美人」築地書館、2000
ヘンリク・イプセン「人形の家」角川文庫、1952
スーザン・ファルーディー「バックラッシュ」新潮社、1994
井上章一「美人論」朝日文芸文庫、1995
ウルフ・ナオミ「美の陰謀」TBSブリタニカ、1994
杉本鉞子「武士の娘」ちくま文庫、1994
ジョンソン桜井もよ「ミリタリー・ワイフの生活」中公新書ラクレ、2009
佐藤昭子「私の田中角栄日記」新潮社、1994
斉藤美奈子「モダンガール論」文春文庫、2003
光畑由佳「働くママが日本を救う!」マイコミ新書、2009
エリオット・レイトン「親を殺した子供たち」草思社、1997
奥地圭子「学校は必要か:子供の育つ場を求めて」日本放送協会、1992
フィリップ・アリエス「子供の誕生」みすず書房、1980
伊藤雅子「子どもからの自立 おとなの女が学ぶということ」未来社、1975
ジェシ・グリーン「男だけの育児」飛鳥新社、2001
末包房子「専業主婦が消える」同友館、1994
熊沢誠「女性労働と企業社会」岩波新書、2000
ミレイユ・ラジェ「出産の社会史 まだ病院がなかったころ」勁草書房、1994

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