匠雅音の家族についてのブックレビュー   家庭が崩壊しない間取り|佐川 旭

家庭が崩壊しない間取り お奨度:

著者:佐川 旭(さがわ あきら)  マガジンハウス 2009年 ¥1500−

著者の略歴−一級建築士・間取り博士。1951年福島県生まれ。日本大学工学部建築学科卒。間取りの専門家で、間取り博士と呼ばれる。また、建築設計を通して「環境問題」に取り組む。地元の木材を100%使って建物をつくりあげる森林資源の「地木地消」を実践。同時に「環境に配慮した家づくり」をテーマに農林業の活性化と森林の保全活用を図る、森林資源循環をめざした木造の家づくりに積極的に取り組んでいる。第7回日本木青連木材活用コンクール最優秀賞(林野庁長官賞)、うるおいのある教育施設賞(文部科学省)などを受賞。著書に『一戸建てはこうしてつくりなさい』(ダイヤモンド社)、『地域力をつくる建築』(建築ジャーナル)、『世代を超えた住まいづくり』(lMS出版)などがある。佐川旭建築研究所代表
 外山知徳の「家族の絆をつくる家」に星を献上しているように、ハードとしての家が人間関係に影響があることは認める。
しかし、外山知徳が<個室が登校拒否を生むのではなく、登校拒否になった結果、個室に閉じこもってしまうのだ>というように、ハードが最も重要というわけではない。
TAKUMI アマゾンで購入
家庭が崩壊しない間取り

 お金をだしさえすれば、家というハードは、手に入れることが出来る。
家族関係がおかしくなりかかったときに、家を新築して人間関係を再構築しようとしても、それは無理である。
片づけることの出来ない人は、新築した家に住んでも、やはり散らかしている。
家を新しくしたからといって、人間の性格が変わるわけではない。

 大家族の時代には、家を建てるなんて言うことは、誰にでも巡ってくるわけではなかった。
なにしろ、何代もの世代にわたって、民家という同じ家に住み続けた。
だから、家の維持はしたろうが、新築することはめったになかった。
そのため、庶民が間取りを考えるなんてことはなかった。
またもし、家を建てるとしても、庶民の家はほとんど同じ間取りだった。

 戦後になって、庶民たちが自分の家を建てるようになった。
しかし、自分のスタイルがもてないので、どんな家を建てて良いか分からなくなった。
生き方というソフトを、家というハードに頼るようになった結果、本書のような展開になったのだろう。

広告
 どんな間取りにしても、子供を大切にしなければ、家庭は崩壊する。
自分の家をつくることが、自己存在の証明になったら、もう家庭は崩壊過程に入ったに違いない。
にもかかわらず、近年の住まいのつくり方、間取りの問題が原因で、家族間のコミュニケーションが崩れ始めている、と筆者はいう。
 
 夫は仕事に追われ、子どもは塾などで忙しく、家族全員が顔をそろえることさえ少なくなってきました。それが後に触れるようなニートや家庭内暴力、またDV、家庭崩壊、さらに親がわが子に殺されるといった殺人事件などに発展する問題につながった面は否めません。P22

と筆者は大胆なことを言う。
しかし、40歳や50歳になっても、引きこもってしまうことがある。
個食であってもニートにならない子供もいる。
人間行動を間取りに結びつけて考えるのは、おおいに無理がある。

 筆者は建築士で、家を建てることを生業としている。
そのため、自分の仕事が人間に大きな影響を与えると、自分の仕事の重要度を力説したいのだろう。
外科医は手術したがるし、建築家は建てたがる。
しかし、何もしないで、様子を見るという選択もあり得る。
建築家であるボクは、家を造ることには慎重でありたいと思っている。

 ソフトとしての設計手法があって、間取りを検討するなら良いと思う。
しかし、本書は個々別々の具体例を、総花的に並べているだけで、判断のポリシーが感じられない。
外山知徳が<テリトリー>という判断機軸を出しているのに比べると、説得力が弱いといわざるを得ない。

 マンガやテレビドラマに登場するキャラクター、たとえばサザエさんやドラえもんなどの住む間取りや、不動産広告の間取りを取り上げている。
こうした視点は、これらを批判する根拠が必要で、本書はただ場当たり的に並べただけである。
個室があるから引きこもるのではなく、引きこもりたくなると個室空間を作りだすのだ。
決してハードが先行するのではない。

 壊れていく団らんというが、核家族の団らんなどあったのだろうか。
生産組織だった大家族では、一家が一緒に食事をすることはあったかも知れない。
なにしろ家の廻りが働く場だったから、大人たちは家の近くにいつもいた。
しかし、長距離通勤が当たり前になってからは、一家が揃うことは少なかったのではないか。
産業構造が家族のあり方を決めている中で、間取りを云々するだけで、人間関係まで論じるのは無理だ。
家考」も参考にして欲しい。    (2010.4.3) 
広告
  感想・ご意見・反論など、掲示板にどうぞ
参考:
赤松啓介「夜這いの民俗学」 明石書店、1984
岡田秀子「反結婚論」 亜紀書房、1972
信田さよ子「脱常識の家 族づくり」中公新書、2001
今一生「ゲストハウスに住も う!」晶文社、2004年
クライブ・ポンティング「緑の世界史 上・ 下」朝日新聞社、1994
ダイアン・コイル「脱 物質化社会」東洋経済新報社、2001
谷田部英正「椅子と日本人 のからだ」晶文社、2004
塩野米松「失われた手仕事の思想」 中公文庫 2008(2001)
青山二郎「青山二郎文集」 小沢書店、1987
エドワード・T・ホール「かくれた次元」みす ず書房、1970
オットー・マイヤー「時計じかけの ヨーロッパ」平凡社、1997
ロバート・レヴィーン「あ なたはどれだけ待てますか」草思社、2002
谷田部英正「椅子と日本人のからだ」 晶文社、2004年 
ヘンリー・D・ソロー「森 の生活」JICC出版局、1981
野村雅一「身ぶ りとしぐさの人類学」中公新書、1996
永井荷風「墨東綺譚」 新潮文庫、1993
服部真澄「骨董市で家を買う」 中公文庫、2001
エドワード・S・モース「日本人の住まい」八 坂書房、2000
高見澤たか子「「終の住み か」のつくり方」集英社文庫、2008
矢津田義則、渡邊義孝「セルフ ビルド」旅行人、2007
黒沢隆「個室 群住居」住まいの図書館出版局、1997
増田小夜「芸者」平凡社  1957
福岡賢正「隠され た風景」南方新社、2005
イリヤ・プリゴジン「確実性の終焉」 みすず書房、1997
エドワード・T・ホール「かくれた次元」みす ず書房、1970
オットー・マイヤー「時計じかけの ヨーロッパ」平凡社、1997
ロバート・レヴィーン「あ なたはどれだけ待てますか」草思社、2002
増川宏一「碁打ち・将棋指しの誕 生」平凡社、1996
宮本常一「庶民の発見」 講談社学術文庫、1987
青木英夫「下着の 文化史」雄山閣出版、2000
瀬川清子「食生活の歴史」 講談社、2001
鈴木了司「寄生虫博士の中 国トイレ旅行記」集英社文庫、1999
李家正文「住まいと厠」 鹿島出版会、1983
ニコル・ゴンティエ「中 世都市と暴力」白水社、1999
武田勝蔵「風呂と湯の話」塙 書店、1967
ペッカ・ヒマネン「リ ナックスの革命」河出書房新社、2001
R・L・パーク「私たちはな ぜ科学にだまされるのか」主婦の友社、2001
平山洋介「住宅政策のどこが問題か」 光文社新書、2009
松井修三「「いい家」が欲しい」 三省堂書店(創英社)
匠雅音「家考」 学文社
バーナード・ルドルフスキー「さ あ横になって食べよう」鹿島出版会、1985
黒沢隆「個室 群住居」住まいの図書館出版局、1997
S・ミルグラム「服従 の心理」河出書房新社、1980
李家正文「住まいと厠」 鹿島出版会、1983
ペッカ・ヒマネン「リ ナックスの革命 ハッカー倫理とネット社会の精神」河出書房新社、2001
マイケル・ルイス「ネクスト」アウ ペクト、2002
匠雅音「核家族か ら単家族へ」丸善、1997

「匠雅音の家族について本を読む」のトップにもどる