匠雅音の家族についてのブックレビュー    「老い」に備える−老後のトラブルと予防法|中山二基子

「老い」に備える
老後のトラブルと予防法
お奨度:

著者:中山二基子(なかやま ふきこ)  文春文庫 2008年  ¥524−

 著者の略歴−1943年生まれ。弁護士。東京大学卒業。高齢者の財産管理・成年後見制度・親族・相続が専門。東京弁護士会高齢者・障害者総合支援センター「オアシス」委員。中間法人「市民のための成年後見センター」代表理事。「世田谷区成年後見支援センター」所長。著書に『老いじたくは「財産管理」から』(文春文庫)、『「老いじたく」成年後見制度と遺言」』(文春新書)、『家族のための老いじたくと財産管理』(講談社+α新書)など。
 家や家族が生産組織だった時代、家を存続させるように相続が行われた。
たとえ、特定の個人が不満でも、家を存続させることが、多くの人々の利益にかなった。
それは農業を主な産業とする社会が、生みだした生き延びる知恵だった。
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 核家族が主流になって、家や家族が生産組織ではなくなった。
そのため相続が恣意に従うようになり、誰に相続させるかが大問題になった。
わずかな財産を餌に、老後の保障を確保したい者と、その財産が欲しい者とのあいだで、虚々実々の駆け引きが行われる。
駆け引きとなれば、弱い者が負ける。
法は必ずしも、弱者を保護するとはかぎらない。

 わずかな財産をめぐって、夫婦間にまた親子間に、老後の争いが発生する。
本書はそれを防ぐための事例をたくさん書いている。
まだ元気なうちにこそ、任意成年後見人を定めろという。
そのとおりなのだが、ちょっと弁護士の宣伝臭が強く、いささかゲンナリする。
しかし、冷静に考えれば、家が生産組織ではない以上、元気なうちに財産の処分は決めておくべきだ。
本書のいうとおりである。

 本サイトが、2世帯住宅をハウスメーカーの陰謀だというように、法的な面からも2世帯住宅に警鐘を鳴らしている。

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 今年の初め、念願の二世帯住宅が完成し、柳さん夫婦は晴れて長男夫婦と同居しました。一階が親世帯、二階が子世帯で、風呂と玄関は資金とスペースの関係から共用にし、一階に設けきした。土地はもともと父親である柳さん名義ですが、新居は柳さんと長男の二分の一ずつの共有名義にしました。建築資金の半分は柳さんの退職金から出し、半分は長男がローンを組んで払ったので、資金の負担割合のとおりに登記したのです。
 長男夫婦と同居して、柳さん夫婦は老後の不安から解放され、幸せな日々が訪れるはずでした。いずれ可愛い孫でも生まれれば、更ににぎやかで楽しい毎日になるはずでした。しかし、現実は違いました。(中略)
 二世帯住宅に建て替えると、土地は親の名義ですが、建物は子供名義か親子の共有にすることがほとんどです。しかし、そうなると、親子関係がうまくいかなくなったとき、解決が大変難し
くなります。元に戻ることはできませんし、ほとんど元本の減っていないローンが残っていますから、売って分けることも容易ではありません。地獄のような状態を我慢するしかないことになります。
 二世帯住宅は、うまくいけばにぎやかで楽しいものになりますが、うまくいかない事例が少なくないのも事実です。万一、うまくいかなくなったとき、自分たちの場合はどんな解決方法があるのかを考えてから踏み切ることが必要だと思います。P107


 家が生産組織ではないのだから、個人が自力で喰っていかなければならない。
それは老人になろうとまったく同様で、年金でも貯金でもいい。
とにかく自力で、自分を養っていかなければならない。
たとえ自分の子供であろうと、頼ろうとする子持ちは御法度である。

 自分が認知症になったら、配偶者が認知症になったら、いずれも頭が痛い状況である。
本人確認が厳しくて、配偶者には貯金が下ろせない。
もちろん遺言も書けない。
しかし、誰かが面倒を見なければならない。
お金がかかるが、誰がだすのか。
やっかいな問題だが、本書がいうように、元気なうちに対策を立てておくべきだろう。

 任意後見制度、財産管理契約、それに遺言を書いておくことなどが、重要なのだろう。
本書への要望は、それぞれの費用が、どの位かかるかを書いて欲しかった。
(2008.6.19)
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参考:
黒沢隆「個室群住居:崩壊する近代家族と建築的課題」住まいの図書館出版局、 1997
フィリップ・アリエス「子供の誕生」みすず書房、1980
E・S・モース「日本人の住まい」八坂書房、2000年平凡社、1970
モリー・マーティン「素敵なヘルメット 職域を広げたアメリカ女性たち」現代書館、1992
アラン・ブルーム「アメリカン・マインドの終焉」みすず書房、1988
梅棹忠夫「女と文明」中央公論社、1988
ポール・ウォーレス「人口ピラミッドがひっくり返るとき高齢化社会の経済新ルール」草思社、2001
フィリップ・アリエス「子供の誕生」みすず書房、1980
イヴォンヌ・クニビレール、カトリーヌ・フーケ「母親の社会史」筑摩書房、1994

湯沢雍彦「明治の結婚 明治の離婚」角川選書、2005
越智道雄「孤立化する家族」時事通信社、1998
高木侃「三くだり半と縁切寺」講談社現代新書、1992年
岡田秀子「反結婚論」亜紀書房、1972
大河原宏二「家族のように暮らしたい」太田出版、2002
J・F・グブリアム、J・A・ホルスタイン「家族とは何か」新曜社、1997
磯野誠一、磯野富士子「家族制度:淳風美俗を中心として」岩波新書、1958
エドワード・ショーター「近代家族の形成」昭和堂、1987
S・クーンツ「家族に何が起きているか」筑摩書房、2003
賀茂美則「家族革命前夜」集英社、2003
信田さよ子「脱常識の家族づくり」中公新書、2001
匠雅音「核家族から単家族へ」丸善、1997
黒沢隆「個室群住居:崩壊する近代家族と建築的課題」住まいの図書館出版局、1997
E・S・モース「日本人の住まい」八坂書房、1970
エドワード・ショーター「近代家族の形成」昭和堂、1987
ジョージ・P・マードック「社会構造 核家族の社会人類学」新泉社、2001
S・ボネ、A・トックヴィル「不倫の歴史 夢の幻想と現実のゆくえ」原書房、2001
石坂晴海「掟やぶりの結婚道」講談社文庫、2002
マーサ・A・ファインマン「家族、積みすぎた方舟」学陽書房、2003
上野千鶴子「家父長制と資本制」岩波書店、1990
斎藤学「家族の闇をさぐる」小学館、2001
斉藤学「「家族」はこわい」新潮文庫、1997
島村八重子、寺田和代「家族と住まない家」春秋社、2004
伊藤淑子「家族の幻影」大正大学出版会、2004
山田昌弘「家族のリストラクチュアリング」新曜社、1999
斉藤環「家族の痕跡」筑摩書房、2006
宮内美沙子「看護婦は家族の代わりになれない」角川文庫、2000
ヘレン・E・フィッシャー「結婚の起源」どうぶつ社、1983
瀬川清子「婚姻覚書」講談社、2006
香山リカ「結婚がこわい」講談社、2005
山田昌弘「新平等社会」文藝春秋、2006
速水由紀子「家族卒業」朝日文庫、2003
ジュディス・レヴァイン「青少年に有害」河出書房新社、2004
川村邦光「性家族の誕生」ちくま学芸文庫、2004
信田さよ子「脱常識の家族づくり」中公新書ラクレ、2001
菊地正憲「なぜ、結婚できないのか」すばる舎、2005
原田純「ねじれた家 帰りたくない家」講談社、2003
A・柏木利美「日本とアメリカ愛をめぐる逆さの常識」中公文庫、1998
ベティ・フリーダン「ビヨンド ジェンダー」青木書店、2003
塩倉 裕「引きこもる若者たち」朝日文庫、2002
サビーヌ・メルシオール=ボネ「不倫の歴史」原書房、2001
棚沢直子&草野いづみ「フランスには、なぜ恋愛スキャンダルがないのか」角川ソフィア文庫、1999
岩村暢子「普通の家族がいちばん怖い」新潮社、2007
下田治美「ぼくんち熱血母主家庭」講談社文庫、1993
高木侃「三くだり半と縁切寺」講談社現代新書、1992
加藤秀一「<恋愛結婚>は何をもたらしたか」ちくま新書、2004
バターソン林屋晶子「レポート国際結婚」光文社文庫、2001
中村久瑠美「離婚バイブル」文春文庫、2005
佐藤文明「戸籍がつくる差別」現代書館、1984
松原惇子「ひとり家族」文春文庫、1993
森永卓郎「<非婚>のすすめ」講談社現代新書、1997
林秀彦「非婚のすすめ」日本実業出版、1997
伊田広行「シングル単位の社会論」世界思想社、1998
斎藤学「「夫婦」という幻想」祥伝社新書、2009

塩倉 裕「引きこもる若者たち」朝日文庫、2002
瀬川清子「若者と娘をめぐる民俗」未来社、1972
ロイス・R・メリーナ「子どもを迎える人の本」どうぶつ社、2005


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